世界で進行している海洋管理への取り組みの主な動きをここで幾つか取り上げてみたいと思います。まず、世界で一番広い200海里水域を持つと言われておりますアメリカで大変注目すべき動きがありました。アメリカは、1969年に、海洋、大気を管掌する省庁の創設、あるいは国家沿岸域管理プログラムの策定などを勧告した「Our Nation and Sea(我が国と海洋)」という有名なストラットン委員会の報告書が出まして、これに基づいて海洋大気局(NOAA)の設置、あるいは沿岸域管理法の制定等さまざまな施策を講じて海洋問題に取り組んできている海洋先進国です。国際海洋年の1998年には大統領の主導のもとに国家海洋会議が開催され、1999年には「Turning to the Sea: America's Ocean Future(海に向かって:アメリカの海洋の将来)」という報告書が大統領に提出されるなど、これまでも海洋管理には積極的な取り組みをしてきております。
ところが、さらに米国議会では、30年ぶりに海洋政策の見直しを行うため、The Ocean Act 2000(海洋法2000)を今年の6月26日に上院、さらに7月25日に下院でそれぞれ議決したのです。通常、新しい政策は新大統領が決まってから進められるので、この法案の成立も多分大統領選後の来年であろうという大方の予想を裏切りましての成立でした。The Ocean Act 2000は、クリントン大統領が8月9日に署名して正式に成立いたしました。
本法律は、アメリカの包括的な海洋及び沿岸域の政策を勧告する委員会の設立を目的としたものでございます。この海洋政策委員会は、発足後18カ月以内に現在の海洋関連政策を全面的に見直して、包括的な海洋及び沿岸域の政策について勧告をまとめ、議会及び大統領に提出する。大統領は、この報告書を受領後120日以内に、議会にこれに対する行政側の提案と対応を提出するということを定めております。大統領選の方は相当もめておりますけれども、大統領選挙前のThe Ocean Act 2000の成立は、党派を超えて新しい海洋政策の推進に取り組むアメリカの強い意欲を示していると思います。
次に、オーストラリアも今最も熱心に海洋管理に取り組んでいる国の1つです。ちなみにオーストラリアは、南極大陸の水域を含めまして1620万平方キロメートルのEEZを主張している海洋大国でございます。ちなみに、アメリカは762万平方キロメートルですので、南極大陸の水域をどう見るかという問題はございますが、いずれにしてもオーストラリアはアメリカと一、二を争う海洋大国です。
1998年末にAustralia's Ocean Policy、オーストラリアの海洋政策をハワード首相の主導のもとに策定しております。これは海洋法条約でオーストラリアに認められました排他的経済水域や大陸棚の管轄海域を、統合的かつ生態系に基づいて計画、管理するフレームワークを設定するものです。この政策の中核として全国を8〜9の地域に分けて地域海洋計画をつくって、それを実行する。そういう形でこの海洋政策をやっていこうとしております。その地域海洋計画の意思決定機関として国家海洋閣僚会議を組織しております。この国家海洋閣僚会議は、議長が環境大臣で、環境、産業・科学・資源、観光、漁業、運輸の5大臣から成るものです。これはOcean Policyによりますと意思決定機関だと書いてあります。
さらに1999年末に、海洋政策の実施事務局兼技術支援、計画推進のために環境省に国家海洋局(The National Oceans Office)を設置しております。私たちは去る10月にタスマニアにあるこの国家海洋局を訪問しました。まだ陣容が15名とか20名という程度の規模でございまして、国家海洋局という言葉から受ける感じとは若干違いますけれども、スタッフがほぼ整って、これからオーストラリアの地域海洋計画に取り組もうとしておりました。