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一つは、いわゆる経済水域の内外を移動するような魚種と高度回遊性魚種といわれるマグロなどの魚種でありますけれども、これについての国連海洋法条約の規定は、沿岸国と漁業国が互いに協力しなさいということしか、規定されなかったわけであります。従いまして、これは条約で不十分に残されている部分として、1995年に新たにそれをカバーするための国連実施協定ができました。それによって、地域漁業機関を中心とした協力体制というものが一応できたわけであります。ただ、ここには第三国、つまり地域漁業機関に入ってこないような協定の非加盟国をどう扱うか、どのように国際管理体制の中に組み入れていくかという問題が残されております。それから、ボルゲーゼ女史が盛んにおっしゃっていました予防原則とか予防的アプローチ(プレコーショナリー・アプローチ)というものについて解釈が非常に多様であるということも事実でありまして、この国連実施協定の中の予防的アプローチということは具体的にどういうことを意味するのか、かなり多くの問題をはらんでいると思います。そういうこともありまして、「協力」ということをこの分野においてどのように具体化していくかということはなお課題を負っているということであります。

もう一点、国際海峡における通航レジームが国連海洋法条約で確立されました。ただ、この国際海峡の通航制度の中に、沿岸国と海峡利用国がお互いに海峡内の海洋汚染防止等について協力しなさいという規定があります。ここでも「協力」ということが一般抽象的な形で規定されているわけですけれども、この協力をどのようにしていくのか、海峡を利用する日本をはじめ、利用国側の船舶あるいはその本国が通航料なり、あるいは航行支援料というようなものを払って航行支援設備等の整備に向けていく、そういった形の協力をするのかということについて、今マラッカ・シンガポール海峡の沿岸諸国と関係諸国の間でいろいろと国レベルよりも、むしろ今のところは民間の国際会議という形で議論が進められているようであります。ここにもこれからの海洋空間において協力とか、海域の管理というのをどうするかという問題が含まれています。ですから、第一に述べた資源問題だけではなくて、海上交通の側面についても同じような問題が出てきているということであります。

その意味では、日本の場合に、国際的に解決を迫られてくる様々な海洋問題に対応する制度的な基盤あるいは思想的なバックグラウンドを準備しているのか、そこのところが今問われているのだろうと思います。

 

寺島:ありがとうございました。それでは外務省の大久保さん、お願いいたします。

 

大久保:外務省経済局海洋室の大久保と申します。本日は私どもの室長の高瀬が、現在国際海底機構の総会への出席のためジャマイカに行っておりまして、代わりに私が出席させて頂きますので、宜しくお願いします。

まず最初に、今、栗林先生から国連海洋法条約の話が出ましたので、外務省の担当事務についての紹介をさせて頂きますと、まず我々の担当事務は「海洋の開発・利用に関する外交上の総合政策の企画・立案」となっております。これを、より現実に則した形で言えば、国連海洋法条約やロンドン条約の解釈・適用や、又は、国連海洋法条約の下に設置された国際海底機構、国際海洋法裁判所や大陸棚限界委員会等の国際機関の運営が我々の作業の殆どを占めておりますが、今後は先ほど申し上げたような、海洋の開発・利用に関するより大きなグランドデザインのようなものを、外交的立場から描き、実行して参りたいと思っています。

 

 

 

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