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この海洋管理のモデルの芽は、地方の沿岸の地元社会に生まれています。地方の沿岸地域こそ、住民が実際に海洋活動に携わっている場所であり、自然破壊や汚染による致命的影響を住民が直接被る場所なのです。新しい形の協力と組織が生まれているのはこのレベルです。そして、こうした新しい形は、ブルントラント報告2にもその輪郭が見られ、リオ地球サミット(1992年)で採択された「アジェンダ21」に明記されています。このモデルは、地元社会主体の共同管理で、途上国をはじめとする各国で実現しつつあります。「地元社会主体の共同管理」とは、海洋を利用する者(漁業関係者、港湾当局、観光業界、消費者、NGO、科学者など)が地元の意思決定に参加する「水平統合」、および地元、州/県、国家レベルの機関が共同で意思決定をする場を設ける「垂直統合」を意味します。これは、多国籍企業の現地責任者の自由裁量を拡大して、現地の計画や意思決定に参加できるようにし、地元の利益に密着し、もっと地元に関与するという現代経営論に見られる分権化の傾向と歩調を合わせるものです。マクロレベルで解決困難な多くの問題は、実際は地元社会レベルでかなり効率よく解決することができます。

今や、地元社会主体の共同管理を沿岸の大都市にまで拡大し、こうした都市も「沿岸域総合管理」に統合しなければなりません。確かにこれは難題だが、日本をはじめ、これまでにも解決をした先例があります。例えば、旧来の社会組織とハイテクを融合する防災体制を敷いている横浜の例は参考になるのではないでしょうか。

水平統合の推進が急務であることは、国家レベルでも地元レベルでも変わりません。実際に、世界各国で総合的な海洋政策決定を進める新しい政府機構の実験が行われています。こうした機構としては、海洋と関係がある全ての省庁が参加する関係省庁連絡会議、国会における海洋委員会の設立及び地元社会を含む海洋空間や海洋資源の利用者全ての代表からなる諮問委員会の設立を組み合わせたものが最も有望視されています。

適切なつながりの構築は、国の機関だけでなく、国際機関ともしなければならず、目下構築の途中にあります。実は、この点でも海洋部門は先を行っています。地元社会と地域にある政府間機関の統合を示す最も先進の例が、「地中海持続可能開発委員会」です。この委員会の場合、地元社会や産業界、NGOの代表者が選出されると、投票権を合め、政府の代表者と同じ権利を与えられます。

最近、地域海洋プログラム(Regional Seas Progrmme)が、陸上に起因する汚染を防止する世界行動計画(Global Programme of Action)を地域レベルで実施するという、重要な仕事を新たに開始しました。これはまさに地域海洋プログラムの再活性化のきっかけとなりました。すなわち、地域海洋条約の締約国の政府だけでなく、開発銀行や域内の経済委員会、国連専門機関の地域事務所、市民社会を代表する非政府部門の「主要グループ」が参加する一種の総会の設立など、活動の範囲や制度的取りきめを拡大しています。

地域組織(Regional Oranization)は、新たな海洋管理制度に不可欠な要素です。国の管轄権の範囲は超えるが、その範囲は必ずしもグローバルとは言えない多くの問題を解決するには地域レベルが最適です。

 

2「我ら共有の未来(Our Common Future)」、世界環境開発委員会、オクスフォード大学プレス(オクスフォード)、1987年。

 

 

 

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