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深海底以外は、公海の自由と沿岸水域の主権を認めている旧来の制度が引き続き適用される」と仮定し、海洋の国際的な海底とそれ以外を分けていますが、これも整合性がなく、且つおそらく持続可能性もありません。こうした矛盾は次世代が解決すべきことでありましょう。「人類の共同遺産」という概念と「海洋空間の問題には緊密な相互関連性があり、全体として考慮しなければならない」という2つの概念が、国際法になった国連海洋法条約の前文に実際に盛り込まれています。この注目すべき事実は次世代にとって心強い限りです。

 

持続可能な開発

ブルントラント報告の「我ら共有の未来(Our Common Future)」は、新たに「持続可能な開発」に力点を置き、国連海洋法条約の基本概念をさらに発展させています。

「持続可能な開発」には、「共同遺産」の経済と環境の側面があります。また、開発を持続可能にする条件として衡平と貧困撲滅が強調され、倫理的側面が維持されています。平和/安全保障の側面だけが脱落し、触れられていません。しかし、平和と安全保障なくして経済発展も環境保護も追求できないことは自明の理です。

「持続可能な開発」という概念のさまざまな側面の統合は、共同遺産の概念の場合と同様、部門を超え、統合した学際的取り組みを意味しています。ここから次の概念が生まれました。

 

沿岸域・海洋の総合管理

この概念は、特に「アジェンダ21」に明記されており、1992年リオ地球サミットで採択された、または同サミットから派生した(「UNCEDプロセス」)あらゆる条約、協定、プログラムを実施する前提条件と考えられています。

陸と海が接する「沿岸域」は、高度な複雑系と考えられています。そのため、さらに海洋管理の哲学の土台となる次の2つの基本概念が生まれました。

 

不確実性と予防原則

不確実性は、第二次世界大戦後以来台頭している、新しい「科学のパラダイム」に付随するものです。先陣を切ったのは、「各原子の動きは予測不可能である」と仮定したハイゼンベルグの量子論です。プリゴジンはその考えをさらに発展させ、複雑なモデルが次々と選択肢や可能性の分岐を経てカオスを誘発し、さらにそこから新しい秩序が生まれる様子を示しました。

一般的に言えば、「データの蓄積が進むほど確実性よりも不確実性が生まれる」、そして「複雑系の動きを線形に予測することはできない。複雑系の動きは本質的に予測不可能なものである」ということを「新しい科学のパラダイム」は教えています。

沿岸域は、陸・海・空、生物資源およびその物理的・化学的・気象学的環境、人間の活動や資源開発が全て互いに影響し合うきわめて複雑な系であり、不確実性は「構造的」なものです。したがって、一定の展開を「立証する」あらゆるデータが揃う日まで沿岸域の責任者が決定や救済措置を先送りするのは無意味です。なぜならば、そのような日は永遠に来ないからです。そこで、沿岸域の責任者に求められるのは「予防原則」に基づく行動です。つまり、科学的な確実性がなくても、決定を下し、行動しなければならないのです。

 

 

 

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