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この考え方が主流になれば、地球上の人類の生命は数千年単位で延びるかもしれません。以下のような新しい課題の提示、我々の存続への脅威、不確実化などの様々な状況が、「人間は元来協力的である」との考える方を押し進めています。

・科学に対する認識の変化。科学の新しいパラダイムの台頭。

・科学を基盤としたポストモダンのハイテクノロジーの発達と、次のいずれかによって人類の滅亡を加速する恐れ。

・より先進化した大量破壊兵器の使用。

・我々が吸う大気の汚染、飲料水の汚濁、摂取する食料の汚染。

・「グローバル化」による社会的関係の倫理基盤の弱体化と、自分の信条だけが正しいとする自己中心的な確信の主張の困難化。

 

こうした課題や脅威に対処するため、この「海洋管理の哲学」はさまざまな新しい概念やビジョンに基づいています。その中でも最も根本的な概念とビジョンを次に述べます。

 

人類の共同遺産

マルタ共和国のアルウィッド・パルドー大使が心血を注いで作り上げた(私も深く作業に関与した)「人類の共同遺産」という概念は、最終的に国連海洋法条約に明記されました。同条約では「人類の共同遺産」について次のように規定されています。

(1) 国家または個人が占有してはならない。つまり、財産ではない。

(2) 世界を代表する当局が、貧困層のニーズに特段考慮し、人類全体の利益を目的として管理しなければならない。

(3) 平和的目的だけのために保存する。

(4) 未来の世代のために保存する。未来の世代も人類の一部である。

このように、「人類の共同遺産」には、「開発しなければならない」という経済的側面、「保存しなければならない」という環境的側面、「平和的目的だけのために保存する」という平和/安全保障の側面、「貧困層のニーズに特段考慮し、利益を公平に分け合う」という倫理的側面があります。

この4つの側面を1つの概念に統合するということは、全体論的アプローチを意味し、このことが、これまでに述べた国連海洋法条約の1番目の基本的概念である「人類の共同遺産」を、次の2番目の基本的概念につなぎます。

すなわち、海洋空間の問題には緊密な相互関連性があり、全体として考慮しなければならないという概念です。

国連海洋法条約には、政治的妥協により事実上この概念に矛盾する条項が多数あります。共同遺産の概念の平和/安全保障の側面を切り離して、全く別個の機関であるジュネーブ軍縮委員会に委ねたという点では確実に整合性が欠如しています。経済的側面や環境的側面と平和/安全保障の側面は表裏体で切り離せないものです。

これらは、両方を対象にできる制度的取りきめによって全体として考えていかなければなりません。また、「共同遺産の概念は深海底に限定して適用されるものであり、他には関係がない。

 

 

 

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