さて、皆さんはもし自分が癌になったら、家族が癌になったら本当のことを教えてほしいと思っていらっしゃいますか。今は元気だから、「そのときはちゃんと教えてほしい。私はちゃんと向き合える」というふうに思っていらっしゃる方のほうが今は多くなっているんじゃないかなと思うんです。「そういうときにどう対処すればいいかわからないからホスピスセミナーなるものにはるばるやってきたんじゃない」というふうに言われる方があると思います。実際に今、日本の癌患者に対する告知率というのは、まだまだ少ないです。私は昨日も、65講目の「命の授業」を岐阜でやってきましたけど、6年生の子どもたちに、「あなたたちは、日本で癌の患者さんに本当のことを告げるほうが多いと思う? そうじゃないほうが多いと思う?」て聞くと、6年生の子どもでもちゃんと知っていて、「告げることのほうが少ないんじゃないか」とちゃんと答えてくれるんです。でも、年々、告知率というのは上がっています。それでもまだ私みたいに知らない間に体の中で癌が進行してしまった患者に対して、本当のことを告げるというのは、たいへん少ないのです。何を隠そう、私も今から6年半前、入院する前日に夫に「どうだ、おまえは、癌だったらちゃんと教えてほしいか?」と言われて、「いやだ」と言いました。「怖いから知りたくない」と答えました。その前の半年間は腹痛で病院に週に何回も通っていました。でも、癌が見つからなくて、「あなたは癌じゃないんだから」とれっきとした消化器の専門の医師に言われておりました。癌じゃないと思い込んでいたので、癌について知ろうともしませんでした。癌のことを知らなかったがために怖いというふうに思うと思います。だから「知りたくない」と答えたのです。
結果的に、脾臓とかリンパ節とか含めて胃をぜんぶ摘出する手術が終わったあと、告知を受けました。「残念ながらあなたの癌はもうたいへん進行していました。あなたが5年間生存できる率は20%です」と言われました。そのときはたいへん落ち込みましたけど、「これからは自分の体のこと、一つしかない命のこと、一回きりしかない人生のことを人まかせにするのはやめよう」と思ったんです。私が文系の出身なので、医学はよくわかんないけど、「自分の体の声に耳を傾けて、いろんな人からいろんな情報を得て、自分で判断して、自分の医療も、自分の人生も選びとっていく、それが自分自身の体の主人公になることだ。生きることを自分で主体的に選びとっていくことだ」と思いました。
なかなか告知率は上がりません。それをどんなかたちで進めていくかというふうに思ったとき、私は真っ先に、「もっと世間一般で死を普通のこととして語れるようになってほしい。そうするともっと進行しちゃった癌の患者にも、『あなたの状態は今こんな状態です。もしかしたら、あなたに残された時間は少ないかもしれません』というようなことを言ってもらえるようになるかもしれない」というふうに感じました。
それまで子どもたちにお話を語る、絵本を読んでというようなことを中心にやってきました。かつて性教育が小学校で取り入れられるようになったとき、私の分野でいうと、子どもに本当の性のあり方を、生きるうえで性というのがどんなにだいじなことか、子どもたちにわかりやすく伝えるような本がたくさん出ました。もしそういうことを死という世界からいちばん遠くにいる子どもたちに学校で語るようになれば、一般の社会でも、医療の場でも、死を構えずに語れるようになれるかもしれないというふうに思ったんです。