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具体的にどのようなことをしてくださっているかというと、病棟の中のお花にお水をやってくださったりだとか、季節感を感じることができるように、お雛様を飾ったり、2月には節分のお面を飾ったりだとか、いろんな季節がわかるようなことをロビーにしてくださったりだとか、毎日のお茶やお三時になると手作りのおやつを配ってくださっているんです。私のホスピスには看護助手さんがいらっしゃらないので、いっしょにベッドをつくっていただいたりだとか、あとの片付けをいっしょにしていただいたりだとか、いろんなことをお手伝いしてもらっています。医療者ではないボランティアさんという存在が患者さんのところにいてくださるということは、患者さんにとっても大切なことです。患者さん自身は先生にしか見せられない顔、看護婦にしか見せられない顔といろんな顔があると思うんですけれども、ボランティアさんにしか見せられない顔というのがあって、ボランティアさんが普通にエプロンをして患者さんのところを回ってくださることで、ポロッと自分の気持ちをお話しできたりということがあるのではないかなというふうに感じています。

松島 ありがとうございました。

加藤先生、従来の医療というのを、医師と看護婦がチームでというところだったと思いますが、いろんな職種の人、今日、ここにおられない、薬剤師や、理学療法士や、あるいは音楽療法士であるとか、栄養士さん、そこにボランティアも入る。そういうふうな方々がチームになってケアをするのをまとめる立場でもあるかと思いますが、そのへんでどんなふうにお考えでしょうか。

加藤 先日、ある患者さまのところに来てた牧師が言ったことなんですが、「人間には人間がいるんですね」という言葉を吐かれました。ご臨終が近いかたちになったときに、すぐそばにお友達やボランティアの人たちなど、これまで面倒をみてた人たちがそばでソッと手を握っていらしたんです。ボランティアの役割というのはそういうことだと思います。

人と人との触れ合いをどのように広げていくのか。私がいちばん最初にお話ししましたように、ホスピスに入ってくる、あるいはご自分が病気になってくると、ご自分の今までできていた活動が随分できなくなってしまいます。

私たちは、医療をしていく側ですから、自分たちにとって専門的であることと、そうではないこととがあります。たとえば私にミシンの縫い方を教えなさいといっても、それは無理なことです。子どもさんたちのいろんなものを作ってあげたいという患者さんもなかにはいます。そういうことをボランティアの方々がお手伝いをする、「あ、ここをこうすればいいんですよ」と。そして自分が子どもさんたちのために残すことができるものをいっぱい作っていく。あるいはちょっと外出をしたい、そういうときに「ここに行けばこんなおいしいものがあるよ」ということがボランティアさんたちのほうがよく知っています。そういうお手伝いをしてくださる。

あるいは私たちホスピスの場合はお酒も許されていますから、お酒を飲みたい人たちに私たちがバーを開いてふるまっているわけです。病院のなかでは私たちだけではお手伝いすることができない人と人との触れ合いをどれだけ広げていくことができるのか。それが私たちのボランティアの役割ではないだろうか。そして、ボランティア自体がホスピスのなかでその人たちの生きざまを見て、そして死んでいく姿を見て、ご自分のおうちや地域に帰り、その地域が「死」というものをどのように受け止めていくのか。ちょっと外出したときに車椅子に乗った癌の末期の患者さんたちにどういう声をかけることがいいのか、そういうことをお店の人たちがしてくれるのか。そういうあり方、それがその地域の成熟性だというふうに考えております。そのためには、私たち医療者だけではできることではなく、あるいは講演会を何回も開いたからといってそれで拡がっていくものでもなく、ご自分がそこで体験をすることによって少しずつその地域のなかに拡がっていくことではないだろうかなと思っております。

 

 

 

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