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こういうケースで告げられた患者さんご自身がよくおっしゃるのは、主人の、また家内の、娘の、息子の、または嫁の切り出してくれた勇気、そして隠しているときのエネルギーや思いやりに対して涙が出たというふうにおっしゃいます。それほどまで大事にして告げてくれた人に対する思いやりを、むしろ患者さん方が示しておいでになるという姿を見てまいりました。ですから、わが家でもだれかが癌になったらお互いに言おうじゃないかと約束しているわけであります。告知の問題のなかにも、家族から家族に伝えてもいいんじゃないかという気持ちが、私のなかにはあります。もちろん後日に、きちんと専門家から専門的に説明を受けたいという申し出がもちろんあります。

この大事な言葉が抜けてお別れをする場合、失ったあと遺族になったときに、残された家族が何を頼りに生きるかといいますと、生前、終末期に患者さんが家族に向かって、小さな言葉であったとしても語りかけたその言葉が大きな支えになると感じています。

頑固な典型的な日本人の男性の方を失われた奥様が、「主人は何も言ってくれなかった。いちばん最後に、明日息を引き取るということを自分は認識しないで前の日に帰った。だけども、いちばん最後に帰るときに『ありがとう』と一言いってくれた。これが今の私の心の支えです」とこういうことをお聞きするたびに、医療者としてそのアプローチの大事さを、何気なく患者さんやご家族の方々にお話をする必要があるんだということを感じてまいりました。

松島 はい、ありがとうございました。

ご質問の中に、死別後、家族の支援をどのようにしたらいいかというご質問がありました。日本のホスピスやいろんな病院でも、死別後のご遺族のケアということの大事さが言われ、それを形として始めようとするところも多くあります。デーケン先生のご活動にもありますように、たいへん重要かと思います。

同時に、あるいはそれ以上に、いちばん大事なことは、終末期を、あるいはその前からの人生を共にどう過ごせたかという、そのときの医療者の役割もまた非常に重要だなというふうに思います。ですから、死別後の遺族のケアも大事ですが、その前のケアをいかにしっかりとするかということが、また改めて考えさせられたように思います。

それでは時間も押してまいりましたので、患者さんやご家族を支えていく立場を援助する側に少し話題を移していきたいと思いますが、今日、お話をうかがっていると、医師や看護婦や、カウンセラーの役割は何となく少し見えたかもしれません。ご質問のなかに、ボランティアの役割を聞いてみたいということがありました。

和田さんのところはボランティアの方とお仕事をされていると思いますが、ボランティアの役割はどういうふうに思われますか。

和田 私のホスピスには、ホスピス自体に来てくださっているボランティアさんが20人くらいいらっしゃいます。患者さんが病院でその人らしい生活を大切にして過ごしていただくためには、ボランティアさんお一人お一人の力がとても大切だなと感じています。

 

 

 

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