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すごく一所懸命にご家族はされているんですけれども、なかなかそのことを自分自身で認めてあげることができないご家族もいらっしゃいます。数週間おかあさんのケアを一所懸命にされていた方が、どうしても自分のなかで、「まだもっと、まだもっと」というお気持ちがあって、顔を合わすといつも泣かれて、「どうしたらいいのかわからない」という娘さんがいらっしゃったんです。私はその娘さんに、「十分あなたはおかあさんに対してケアができているんだ。おかあさんはすごく喜ばれていると思いますよ」ということをお伝えしたんですけれども、その娘さんが言ってくださったことは、「そう言ってもらってはじめて自分がちゃんとおかあさんの看病ができているということがわかりました。それで心のつかえが取れました」と言われたんです。ケアの場を提供してあげるということと共に、十分できてるんだということを言葉にして、そのご家族にお伝えしていくことが大切ではないかなと思っています。

もう一つは、その患者さんが病気になられるということで、家族のなかの役割が変化していくということです。今まで、おかあさんだった方が病気になって入院されるということになると、その家庭のなかにおかあさんがなくなってしまうということなので、家族の形が変化してしまいます。そういうなかでご家族の方は、患者さんの看病、患者さんを失う悲しみ、プラス生活の苦労を同時に背負ってしまわれるわけなんですけれども、そういう生活の部分までどういうふうに協力して補われているのかというとこらへんも、ご家族が希望される場合はいっしょに考えさせていただいています。

もう一つ言えることは、ご家族にはそれぞれのご家族の歴史があって、ご家族の形があると感じています。なので「もっとこういうふうにしてくれたらいいのに」と医療者側は思いがちなんですけれども、それはそれぞれのご家族の形があるので、当てはめようとするとなかなかご家族との関係もうまくいかないですし、「どうしてそこまで入ってくるんですか?」というふうに言われるご家族もいらっしゃいます。そのご家族の形を大切にしながら、共にケアしていくということが大切なのではないかなと思っています。

松島 非常に具体的なご発言、ありがとうございました。

加藤先生、ご家族のなかには、お子さんがいる場合もあるかと思います。今日、ご参加の方のご質問のなかに、学校の先生で、子どもさんに「死」をどう教育するかというご質問もありました。ここでは、家族のなかに小さなお子さんがいる場合にどういうふうにという、そのへんいかがでしょうか。

加藤 小さな子どもさんのなかにも、年齢がいろいろ異なっている場合があります。まず、言葉としてお話をすることができる、あるいは自分のことを言葉として整理ができる年代、小学校の高学年、あるいは中学校、高校ぐらいの子どもさんたちの場合は、まず、看護婦あるいはソーシャルワーカーが声をかけ、そのときのお気持ちをまず聞く、そこから始めます。そして、仲良くなること。ホスピスに来られたときに、誰かれとなく声をかけながら、ごく普通の人間関係をつくっていくこと、そこから始めます。もちろんそのなかには、当然のことながら、年齢だとか、どんな学校に行ってるかだとか、あるいは家族のなかの位置だとかということを十分に調べながらいくわけですけれども。まず最初にお友達になり、知り合いになり、普通に話し合うことができるようになり、そして、ホスピスに来て、誰とでも気持ちよく挨拶ができるようになっていく、それがいちばん最初ではないだろうかなと思います。いざ子どもさんに対するケアをするからといって立ち向かっていっても、それはなかなかできるものではありません。

 

 

 

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