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加藤 先ほどのお話のなかでも、西洋では在宅ケアの割合が高いという話をされました。在宅ケアは、ある意味ではとても大切なことだと思います。どういう意味で大切かといいますと、「死」の文化をどのように次の世代に伝えていくのか。「死」の文化を、逆にいいますと、「生」の文化をどのように伝えていくのかということです。

たしかに病院のなかでは、患者さまが亡くなる現場にいることすらできなくなってきています。できるだけ在宅ケアというかたちをとりたいと思っております。私たちも在宅ケアの一つの基地として機能していきたいという思いでつくった次第であります。

しかしながら、現実的にさまざまな問題があります。まず一つは、在宅ケアを実際に担当してくれる医師がどのくらいいるのかということです。都市部であればいいんですけれども、都市部から離れたところになりますと訪問看護はちょっと無理して行くことができる。しかしながら、緊急に病状が変わった場合にすぐ医師が対応できるかどうかという問題は、まだ十分な状況にはなっておりません。

それから、緊急のときにすぐに入院ができる体制がとれているのかというと、それもまだ実際問題として非常に難しいことです。これは在宅ケアのホスピスに対する体制だけではなくて、すべての問題に対しても言えるものかと思っております。逆にこんどは患者さま、それからご家族の立場からしますと、癌の末期というのは怖いもので、とてもしんどいものだという先入観があります。そのために癌の末期ということになりますと在宅ケアは難しいだろうという考え方をお持ちの方がいらっしゃるように思います。しかし、一定の時期にきちんとした管理をしてもらえば、それほど怖いものではない。むしろその過程のなかで起こってくるさまざまな病気の変化に対する不安だとか、病状の一時的な苦しさだとか、そういうものが在宅ケアの大きな妨げになっているのではないかなと思っております。

これは皆さん方、医療関係者以外の方たちの知識の問題にもかかわってきますし、在宅ケアを担当していく医師、あるいは看護婦の知識の問題、あるいは技術の問題にもかかわってくるものと思っております。

在宅ケアがいいのか、それとも施設ケアがいいのかと2つに分けることができないわけですけれども、最終的な死の場所というのは、その人、そしてそのご家族が満足できる場所、そしてもっとも苦しみの少なく、みんなとコミュニケーションが取れる場所であればいいのではないかと。もしも患者さま、それからご家族がおうちがいちばんいいと思われればそれでよし、いろいろな原因でおうちでは難しいと思い、ホスピスをはじめとした施設がいいと判断されればそれでもよし。ただ、施設を選択された場合に、その施設のなかで、本日のテーマであります「死」の文化、そしてその「死」の文化をめぐる生きるということがどのように次の世代に受け継がれることを保証していくことができるのかがとても大事なことかと思っております。

私たちは、施設ホスピスをもっております。在宅ケアもやっております。しかしいちばん大切なことは親から子に親の生きざまや親の死にざまがどのように受け継がれていくかではないかなと思っております。このなかには医学教育や看護教育などが死をどのように扱っていくのかについても大きな問題があるのではないだろうかと思います。

 

 

 

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