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そのなかで、今までは「私もいずれ死ぬ人」という感覚でしか、患者さんが私を見てくださってない。「あなたは元気でいいね」ていう感覚しかなかったのが、この1週間の体験でありますけれども、すごくなんか歩み寄れた思いをしました。それだけ私自身が死というものをもうちょっと身近に見つめたことだと思うんですね。

この自分の死というものを考えてみる必要をとても感じました。今の主治医の先生からは、「たぶん良性でしょう」というふうに言っていただいているので、良性であってほしいと心から思っているわけですけれども、こういうかたちで自分の死というものを見つめることができたことを、とてもうれしく思いました。

2つ目は、「自分にとって心の支えって何だろう」ていうことを思いました。心の支えになるものをこれからもっと育てていかなければならない。患者さんとの会話のなかで、「心の支えって何だろう」「どんな状況に陥っても自分を支えてくれるものって何だろう」という会話に発展しました。患者さんと私との結論は、3つありました。1つは、信仰でありました。私自身はキリスト教がバックになっておりますけれども、目に見えない世界にどれだけ目を注ぐことができるか。2つ目は友情や愛だと思います。人さまの優しい言葉がどんなにうれしいものであるかを、最近ひしひしと感じています。それから3つ目は趣味です。日本人は土壇場に心の支えになる趣味をほとんどお持ちではありません。ですから、心の支えになるような、自分の能力を発揮できるような、楽しくできるようなものを見つけて育てることの必要性を感じました。

デーケン先生が「別れは小さな死だ」とおっしゃいましたけれど、私もこれを過去の経験にいつの日かしたいと思うんです。小さな経験、自分がとってもがっかりするようなまわりの者の死や自分の友達の死とか、そういう死だけではなくて、たとえばリストラをされるとか、病気になるとか、職を失うとか、そういうような小さな死の体験を、そのときそのとき大切にして生きていらっしゃる方が、病床生活のなかで自分の死と向き合っていらっしゃるように見えます。自分の人生のなかに小さな死の体験がたくさんあるはずで、それをどのように見つめて生きることができるか、これも一つの大きなチャレンジだなあというふうに思いました。

それからこれは日本人の私たちがとても考えなくちゃいけないことですけれども、ホスピス病棟で患者さんの死の援助、生の援助をさせていただくときに、自分を語れる人が非常に少ないということであります。どのような援助をさせていただいたらいいのかというところに、私たちはいつも悩むわけでありまして、自分を語れる人へと死の準備をするために成長する必要がある。自分がどうしてもらいたいのか、何を体験し、そこから何を得たのか、そして自分の心と向き合うというような研鑽が必要であることを、私自身の経験と患者さんが語ってくださった経験から感じさせられています。

 

 

 

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