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家庭医療というものを背景にして、この世界に入ってきたという日本のなかでは比較的珍しいタイプのホスピスの医者ではないかと思っています。院長とついてますが、実際は往診もしますし、ゴミがあったら拾いますし、用務員から何もかも全部やっているというのが実態でございます。

松島 ありがとうございました。では、和田さん、お願いいたします。

和田 キリスト教病院ホスピスで看護婦をしています和田と申します。よろしくお願いいたします。

キリスト教病院に勤務をしまして10年目を迎えています。はじめは内科、整形外科、外科というふうにほかの病棟デイケアをして、今、ホスピスに勤務をして3年目を迎えています。私自身は、どの科でも人とのかかわりを大切にしたいと思ってケアしてきましたので、とくにホスピスだけデイケアをしたいと思ってキリスト教病院に就職したわけではありませんでした。終末期の患者さんと深くかかわるようになったのは、外科の病棟で勤務してからです。そのなかで症状緩和がうまくいかなくて悩んだり、病状告知の問題で悩んだりとか、いろいろな壁にぶちあたってきました。そのような状況のなかでいくつかの患者さんとの出会いがありました。なかには、ぎりぎりまで化学療法をがんばって闘い抜いた患者さんや、病状とともに自分の弱りを自覚されてぎりぎりの状態のなかでおうちに外泊をされた患者さんなど、いろいろな患者さんがいらっしゃるんですけれども、それぞれの患者さんとご家族に深くかかわらせていただくことで、患者さんたちとどういうふうに生きていくのかということを共に考えていくということを学ばせていただいたように思っています。

そういうなかから、ホスピスケアに興味が出てきて、ホスピスのほうに配置転換というかたちでホスピスの勤務をするということになりました。ホスピスに勤務するようになってからは、もう一度看護の原点に戻ったような気持ちで看護をさせていただいています。患者さんお一人お一人を全人的にとらえてケアしていくことをその過程のなかで学びました。また、ケアのなかにおいては、ありのままの私が問われていると最近感じています。一人の人間として「あなたはどうなの?」と患者さんに日々問われているような気がしているんです。そのときの自分の気持ちや心のなかをしっかりと見つめて、患者さんとともに生きていきたいと考えています。

松島 ありがとうございました。では、沼野さん、お願いいたします。

沼野 私は高校生のときに私自身で病院薬剤師という職業を選びました。はじめて勤めました病院で、6人部屋の患者さんが一斉に「喜びや希望がなければ人はいきいきと生きられないんだ」ということを薬剤師である私に語ってくださったことがありました。それがきっかけになって、人の心というものがとっても大事なものだということを考えさせられるようになりました。

患者さん方がおっしゃったのはそういう激しい言葉ではなかったんですけれども、「生かされている喜びが感じられないのに、今日も目が覚めてしまって、生きなければならない苦しみがあなたにはわかりますか?」と言われているような衝撃的なイメージを私自身はもちました。それから宗教的な「心のケア」と称するチャプレンという仕事、または一般的な心のケアを担当するこのカウンセラーという仕事に職業転換することになったわけです。

 

 

 

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