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松島 皆様、こんにちは。これから「『死』をみつめ、『今』を生きる」というテーマでパネルディスカッションを進めさせていただきます。進行を担当させていただきます松島です。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は、たくさんの方にお集まりいただきました。医療、福祉関係でお仕事をされている方々、教育関係の方、宗教関係の方、これから医療や福祉の仕事に向かっていきたいと考えておられる学生の方々、そして、何よりも生と死の問題に関心をおもちの一般の方々にお集まりいただきました。なかには、今現在、実際にご家族の病気を看病をされておられる方もおられるかと思います。皆様の関心や興味、すべてにお答えすることはたいへん難しいわけですが、誰にも共通にある「死」を迎えるということについて考えていきたいと思います。たいへん大きなテーマですので、いろんな話になります。それを3つのテーマで順番に考えていこうと思います。

まず1つ目は、死ぬということ。いきなりこのテーマですが、死を迎えるとはどういうことなんだろうか、自分の「死」、あるいは病気をして死ぬということについて。

2番目は、死を迎えるということは、同時に残される人がいるということです。愛する大事な人を失うその家族のことについても考えてみたいと思います。

そして3番目には、実際に医療にかかわっておられる方、福祉のお仕事の方も多いと思いますので、患者さんやご家族を支える、援助する側の問題についても触れられればと考えています。

1番のテーマに入る前に、4人の先生方についてはもう少し先生方のお顔が見えるように、自己紹介を兼ねるかたちで、どうしてこういうお仕事に就かれるようになったのか、きっかけ、そして今どんなお仕事をされているのか、少しご紹介をいただければと思います。それでは加藤先生からお願いいたします。

加藤 皆さん、こんにちは。かとう内科並木通り病院という病院の院長ということで紹介されましたが、私自身は町医者でございます。ホスピスを3年前につくりました。町医者ではホスピスにはさせないということで、しかたなく病院というかたちをとった次第でございます。

開業してもう20年になるわけですけれども、ずっと見てきましたのは、患者さんとそのご家族です。家族のお一人が病気になることによってどのような状態がご家族に生じてくるのかということをずっと見てまいりました。なかでもいまだに忘れられないことが一つあります。

その方は75歳の男性だったんですが、ある日、私の友人の内科医から連絡が入りました。病棟のなかでとても不穏で落ちつかないんだけれども、何かいい方法がないだろうかということで相談を受けました。私は病院まで往診に行ったんですけれども、そこで見た光景というのは、一人のご老人がまだ痴呆が進んでないにもかかわらず、非常にまわりに対して攻撃的になっている。そしてそのまわりでご家族が途方に暮れているという状況を見ました。じつはそのご老人は、ご自分の病気について伝えられていなくて、治療の内容についてもあんまり伝えられていなかった。自分の状況がわからなかったわけですね。そのために、お嫁さんが仕事をやめなければならない。それからお子さんたちが非常に不安定な状態になっているという状況を目の当たりにしまして、私たちがお引き取りをしたわけです。そういう状況のなかから、癌になったご家庭が今の医療のなかにおいてどういう状況になるのかということをつぶさに見させられました。それが直接のきっかけではないんですけれども、そういうことが重なりまして、大きなこれという動機はないままにこの世界に入ってしまいました。

 

 

 

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