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私の長年の友達であるハーマン・ファイフェル博士は、アメリカの死生学の大家ですが、彼の言葉に「死に直面している人とその家族、また死別後の苦悩にあえぐ残された人たちにどれだけ思いやりのこもった援助の手をさしのべられるかが、その社会の文化的成熟度を示す一つの尺度となる」というのがあります。ホスピス運動は医療と看護のテーマですが、狭い意味の医療と看護だけではないんです。私たちは死に直面している患者と、その家族、そして遺族をどれほどあたたかく見守るかということが、ある意味で私たちの社会全体、私たちの文化を評価する一つの大切な尺度になるわけです。ですから、今日のテーマは医療と看護だけではなくて、やはり高松の、そして四国や日本の将来に向かって、どういう社会をつくるか、どういう文化をつくるかという大切なテーマにもなります。

私はホスピス運動の意義をこう考えています。ホスピスは治癒の望めなくなった病人がただ死を待つための場所ではないのです。主として癌の末期を迎えた患者が最後まで充実した生活を送れるように行なうさまざまな援助プログラムと、その基本的な理念の総称がホスピスです。人間らしく生命の終わりを全うするためには、それぞれの患者のクォリティ・オブ・ライフを重視したケアが望ましいわけです。今、各国ではその国情や民族性に根ざした独自のホスピスケアが実践されつつありますが、その土台は死への準備教育だと思います。啓蒙教育がないとホスピス運動も普及しませんね。たとえば自分が癌になった場合、いろいろな選択肢があります。総合病院で最後まで延命を続けてほしいか、あるいは在宅ケアホスピスを希望するか、あるいは施設のホスピスへの入院を希望するか、などです。これは教育がなかったら選択できないですから、インフォームドコンセントといっても全く無意味なことになります。ですから、私たちは小さいときから死をタブー視しないで、生と死について学び、年代に合わせた教育を受けていれば、どんな状況になっても成熟した判断ができるようになります。

私の専門は哲学です。私はいつも人間の偉大さは次の3つのポイントにあると考えています。第1に「人間は考えることができる」、第2に「人間は自分で選択できる」、つまり自由であるということ、そして第3に「人間は愛することができる」というこの3点です。そうしますと、当然最後まで人間は自分で考えたうえで自分の生き方を選択できるわけです。どういうふうに最後の日々を過ごすか、たとえばホスピスに入りたいか、あるいは総合病院での延命措置をずっと続けるか、その選択は自分で決めることが望ましいのです。

これからスライドでも見られますが、各国のホスピスの形態は実に多様ですが、共通しているのは緑と水が豊かなことです。水は生命の象徴です。そしてどこも、だいたいきれいな庭があって花や緑が多いんですね。

 

ここで各国のホスピスの様子をスライドで見ましょう。

ドイツ・アーヘンホスピス

ドイツ・ケルン大学医学部付属ホスピス

アメリカ(ニューヨーク)・カルヴァリーホスピス

アメリカ(ニューヨーク)・セント・ローズ・ホーム

オーストラリア(シドニー)・シークレットハート・ホスピス

イギリス(ロンドン)・デイケア・センター などでした(説明は省略します)。

 

 

 

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