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次に病院とホスピスの大きな違いは、病院では患者を治すことが中心になりますが、ホスピスでは患者と家族はいつも一つのユニットとして考えられています。アメリカのホスピス協会の基準として、患者が亡くなってから1年以上、遺族へのケアを提供しなければならないと決まっています。ですから、世界中のホスピスで、必ず遺族へのケアをやっています。特別な教育を受けたたくさんのボランティアが、患者が亡くなって6週間くらいしたら、遺族に連絡を取って、ホスピスの中で悲しみを分かち合います。

人生に別れはつきものです。誰か愛する人が亡くなれば、遺された人にとって、それは小さな死といえます。今までその人といっしょにいることによっていきいきした人生を送ることができたとしても、その人がいなくなると、私たちの人生の一部もそれでなくなってしまうわけです。フランス語のことわざにあるように「別れは小さな死」なのです。ですから、これからのホスピスのあり方にとって、大切なテーマは、遺族へのケアですね。

今年は、イスラエルで国際死別と悲嘆学会がありました。そこでもよく言われましたが、たとえば奥さんが先に亡くなれば、残された男性の死亡率は4倍に上がるといういろんな国の統計があります。ですから私はもう20年前から、日本全国に「生と死を考える会」をつくろうと呼びかけました。今、沖縄から北海道まで47の会ができました。この会の大きな目的の一つは死別体験者同士の分かち合いの場をつくることでした。お互いに同じような悲しい体験をして、苦しい道を一人で歩いていたら、体験者同士が会って、苦しみを分かち合うことによってお互いに支え合えるかもしれません。ドイツの有名なことわざに、「共に喜ぶのは二倍の喜び。共に苦しむのは半分の苦しみ」というように、死別体験者がお互いにその体験を話す場があれば、苦しみが半分にならなくてもかなり楽になると思います。私は、この20年間に何千人もの死別体験者に会いました。大勢の人がこうした分かち合いの中で立ち直って、今、ボランティアとして働いています。

第2のポイントとして、ホスピス運動は新しい死の文化創造へのすばらしい刺激になると思いますね。20世紀には人類は愚かな戦争をたくさん引き起こしましたが、ホスピス運動のような新しい文化も生み出しました。今、ドイツの在宅ケアホスピスは600を越えています。アメリカにも3100のホスピスがあります。そのなかで175は入院施設のホスピスですが、あとは全部在宅ケアホスピスです。

イギリスのホスピス運動ではこの10年間にホスピスのデイケアセンターが増加しました。今、 250以上になっています。これがいちばん目立つ最近の変化です。つまり施設としてのホスピスも大変重要ですが、在宅ケアホスピスの充実は、とても大切な課題でしょう。

もちろん、在宅ケアの患者にとって、毎日ずっとうちにいるのは辛いこともあるんですね、あまり刺激もないし、孤独になりますね。ですから、週に1回か2回、在宅ケアの患者はデイケアセンターに行って、そこでほかの在宅の患者に会って、お互いに励ましたりできます。希望すれば医者や看護婦にも会えますし、趣味を楽しむこともできるので、創造的に生きるためのすばらしい刺激になります。デイケアセンターをつくるのにはあんまりお金がかかりません。べつにホスピスでなくても普通の病院のなかでもいいし、地域のコミュニケーションセンターでもできると思います。

 

 

 

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