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私は、ソンダース先生に一昨年会いにいきました。先生が33年前につくられたときには、独立型のホスピスというのは治癒の望めない患者さんを収容するところをいうのだと考えられていましたが、ソンダース先生は、「私ははじめからいちばんいい死ぬ場所は家庭であるので、在宅で痛みなく、苦しみなく、眠りにつくことができるような、そういうシステムをつくりたいと思った。けれども、そういう医学や看護が十分にできてないから、まずこの施設で実験をして、そうしてやがては家庭において死が迎えられるように、家庭においてもホスピス的なサービス、ケアが受けられて死を迎えられるようになれば、私は本望である。私の運動はホスピスを一つでも多くつくることではなくて、家庭でも病院でもホスピス的ケアがされる日のくることが私のいちばんの願いである」とおっしゃっていました。

今、外国でも、日本でも、病院のなかに1病棟、たとえば大阪の淀川キリスト教病院は、いち早くホスピスをつくりましたが、病院のなかの1病棟をパリアティブケアユニット(PCU)と名付けて、緩和ケア、痛みや苦しみをなごませるサービスをするところとしています。そして独立したところを独立型ホスピスといっているのですが、やっている内容は同じです。私たちのホスピスは独立型で、ピースハウスといいます。日本財団にも随分助けられましたが、多くの人の献金によって建てられた、富士山が朝な夕な見え、そして北山が見える。土地はゴルフ場のオーナーがゴルフ場の一角に提供してくださったので、ゴルフ場の芝生に続いているまるで天国に行ったようなところです。病院に入院している人がピースハウスに入りますと、入るだけで痛みが軽くなるし、入るだけで食欲が出るというほどで、環境というものが人間の痛みを軽くし、人間に食欲を与え、人間にいのちの支えを与えるということがよくわかります。そしてそこではナースやボランティアによってよいケアがなされている。

数年前に厚生省が、緩和ケア病棟、あるいはホスピスに入院した場合は、治療してもしなくても3日につき3万8000円出すと言いましたので、日本のあちこちに急にホスピスを設立する動きができましたけれども、80あまりのホスピスが今、あるわけです。しかし、それでも1400のベッドにも足りません。毎年27万人の人が癌で死んでいるのに、わずか1/200 の人だけしか日本のホスピスを利用できないというのが実情です。はたして四国はどうなっているのでしょう。この四国においてもさらにホスピスをつくるかあるいは緩和ケア病棟をつくって、そのケアをモデルとして普通病棟のサービスにもだんだん広めるという運動を展開していただけばいいと思います。ですから、私たちもこの方は痛みを止めながら医療処置をしたほうが長生きできるというときには、病院によこして、そして検査か処置をしてもらって、そして落ちつけば家に帰す。悪くなればまた施設に入るというようにやって、最後は訪問看護で在宅でやるか、あるいはホスピスに入る。つまり、その人にいちばん適した場所を選択できるようにしたいのです。

ところが、今日本で癌で亡くなる方は、東京においては1割も自宅で死んでいない。ほとんどみんな病院です。しかもそれは緩和ケア病棟でもホスピスでもない。その人の人生でいちばん悲しい状態で死を迎えている。マカロニ症候群といって、体の穴のあるところはみんな管が入ってるし、気管にも入ってるので、ものが言えない。苦しいとも言えないのです。そのように人間の命ともいえる言葉を奪った状態で、その人の人生が、「本当に世話になったね」とか、「元気でやってくださいよ」、「ママは何もできなかったけれども、生まれてきてよかったと思う」というような言葉も残さずに終えなければならないのです。人間から最後の言葉まで奪ってしまうような近代医学の治療というものを癌の末期の患者に提供するというのは、これは本当の医学ではない、本当の看護でもない。

 

 

 

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