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たとえば、何の告知も受けてない患者さんが、「お月見はできないなあ。時間が残ってない」とおっしゃる。「どうしてそう思うんですか?」てお尋ねすると、「最近、足が重くて、前は売店まで行けてたのに今はトイレに行くのもしんどいんだよ。最近はすごくそういう動けなくなるスピードが早くなってきた」とかおっしゃる。そのときに、「ああ、そう感じられるんですね」と言って、しばらく静かに二人で黙って座ってたりということもあるんですけども、私はここで患者さんのことばを否定したりとか、無闇に励ますということはしていません。ホスピスの看護婦として、患者さんがどうしてこういったことばを出されたのかなということを考えたときに、それは「体調や気持ちの変化が起こってきたよ」ということのサインかもしれませんし、口に出すことでご自分の気持ちを整理されているのかもしれません。けれども、まず私たちの姿勢として、ありのままを受け止めるということが大切ではないかと考えます。話されることばに怯えるのではなくて、いっしょにいて、今そう感じていらっしゃるということを分かち合うことができればいいんじゃないかなと思います。それが話を聞くことであって、私たちがサポートしているということにつながるのではないかと思います。

 

堂園 今、木場田さんがおっしゃいましたけども、最初はすごく怖いんですね。癌を伝えるときも怖いですし、だいじょうぶかどうか怖いですし、「私はもうだめなんじゃないかな」と言われたときに、それを「どうしてそう思うんですか」という一言を出すのがものすごく怖いし、そこまでになるのに訓練といいますか、そういうのはやっぱり必要なような気がします。

初めて在宅に行きましたときに、10分ぐらいいて、帰るときに車のハンドルを持てないぐらいエネルギーをそこで失ってしまって、伝えていくということを、たとえば死を共有するとか、そういうそばにいて15秒、何も言わないでそばにいるというこの15秒を待つ勇気とかエネルギーというのがすごくだいじですし、そういう力を持つように訓練していくことが非常にだいじなことのような気がします。

 

永石 ホスピスの本質は、継続した精神的ケアだという言い方をよくされるんですけども、そのなかで、堂園さんが言われました何もしない勇気といいますか、黙ってそこにいること。木場田さんが言われた、黙って二人でそこに座るという部分が、ある意味でそれを表しているんじゃないかなというふうに思うんですけども、私の経験からいっても、一般病棟でドクターとか看護婦さんはバタバタしていて、なかなか患者の病室には来てもらえないというような感じがあるわけですけども、一般病棟とホスピスは違うなあというのを、私、個人的には感じたんですけども、遠藤さん、今、お二人のお話を聞かれていて、感想としていかがでございます?

 

 

 

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