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それはほんのちょっとのことなんです。でも、そのほんのちょっとのことを言うか言わないかということが、いわゆるヒポクラテスという人が「医はアートだ」と言ってるそうですけど、アートだということはハートフルだということだと思いますけども、ハートがあるかどうかという違いなんだと思います。お医者さまにそういうことを、もっともっと人間のやさしさみたいなことをもっと勉強していただきたいと思います。それでターミナルのお医者さまというのは、ファイティング・ドクターはいらないんですね、もう。ファイティングしてももう治らないってわかっているところでファイトしてもしょうがないんです。だから、もうあと1週間ぐらいというときには、もう心静かに家族とお別れができる準備をしていただく、そういう演出をしていだたくのが、お医者さまの役目ではないかと、私は思っています。

 

永石 ありがとうございました。

三年半という長い闘病生活を看護された立場からのご意見でした。まとめますと、一つは、現在の一般病棟における医療の特徴であります延命主義に対する患者家族からのご意見だったんじゃないかなと思います。もう一つは、医療の専門家としての医師の気配りの不足ということがあげられるんじゃないかなと思います。三点目に、医師も患者家族といっしょに死の共有をということの希望じゃないかなというふうに思いますけども、今、遠藤さんがご指摘になられました患者・家族からの立場からのご意見に対して、堂園さん、どのようにお考えになりますでしょう。

 

堂園 たくさんの問題を提示してくださったと思うんですけども、実際に医療現場にいて、死が近い患者さんを診ているときに、いちばん医者がもつべき勇気というものの一つは、やはり真実を伝えるということが大きいんじゃないかと思います。それは希望を失わないように患者さんに真実、ご家族に真実を伝えていく。それはものすごく勇気がいりますし、エネルギーがいると思います。そのエネルギーを自分のなかでつくっていくというのが、とても医者としてだいじな仕事ではないかと思います。

それから、終末期になって、とくに死が近づきますと呼吸が早くなったり、過呼吸といって、少し一般的な呼吸と違う呼吸をしたときに、ご家族の方は苦しいのでないかというふうに思われる方がおられます。そのときに、「この呼吸が患者さんにとっていちばん楽な呼吸ですよ」というふうなことを説明してあげると安心なさいます。そういうことを私たちは、亡くなる前の何日間の様子とはこういう様子ですよということをプリントに書いてありまして、それをご家族に一つひとつ説明していきます。そうすると、いろんなことが起こっても納得して、死が近いんだということを理解していくような気がします。

 

 

 

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