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ですから、今、私は、どこかで話すときに、あのターミナルの医療に初めてぶつかる家族もいらっしゃると思いますから、そういう人工呼吸でもうあと5分て言われたときには、必ず口や鼻に入っている管を抜いてくださいと、そうすれば、本当にその人を愛している人には何らかのかたちでメッセージは伝わるはずです。それで私のところに手紙をかいてくださった方のなかには、「人工呼吸というものにはじめて出会ったけども、ガーガー、ガーガーいってるなかで、お別れもできないで、それがいちばん心残りだった」と書いてくださる方もずい分ありました。

それで、お医者さまは、自分が知ってらっしゃるから、こっちもわかっていらっしゃるだろうと思っていらっしゃるんで、べつに悪意じゃないと思うんですが、だけど家族は知らないんです。ですから、そういうときに「人工呼吸を付けていいですか、どうですか」と聞くだけではなくて、「人工呼吸を付ければ最後のお別れはもしかしたらできないかもしれませんよ」ということを言っていただきたいんですね。そういうところはやはりハートがあるかどうかということだと思うんです。

それで、手紙をくださったなかに、もうあと数時間の命だと思うのに、そこで採血をされたと。あれはたぶん学生たちの研究に使うためだろうと書いてきてくださった方がありまして、私も主人が亡くなるほんとに三時間ぐらい前に採血されて、それを見てるのがやはりとてもつらかったですね。それなもんですから、私は講演のときにそれを申してあげたことがありました。そうしたら、ある一人の女医さんがお立ちになりまして、それは誤解だと。そういう人工呼吸になってからでも採血するのは、血中の酸素の濃度を調べて、人工呼吸のノブを回す都合があるからやるんだとおっしゃったんです。で、私は、たいへん「それは初めてうかがうことでいいことを教えていただきました」と申し上げましたけど、でも、それと同時に、「おそらく私、主婦でそういうことを知っている人はほとんどいないと思いますよ」と申し上げたんです。それをわかってる人はかなり医学のことをわかっている人ですね。で、やはり私みたいにつらい思いをする人ってたくさんいると思うんです。

で、さっき、お医者さまは感性がなくちゃいけないとお話をなさいましたけど、ちょっとでも人間的な感性があれば、そこで見ている家族がどんなにつらい思いをするだろうということがわかるわけなんです。それでたとえばお医者さまでも看護婦さんでもいいから、「こんな状態で採血をするというのは見てらしておつらいことだと思いますけど、これは医学的にいって必要なことですから、どうぞお許しください」と、一言言ってくだされば、あとで「あの病院で死ぬ前に採血されて、かわいそうな目にあわせた」というトラウマが遺族にないんですね。

 

 

 

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