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本当はうちで死ねればいちばんいいと思いますけどね、私は今、癌やなんかで病院で助からなくて、うちへ帰ってきてうちで自分らしいライフスタイルを貫いて死にたいという人を、何とか病院から助けだしてきて、うちで死なせる運動というのを、在宅の看護婦さんといっしょにやっていますけども、でも、ほんとにうちで死ねればいちばんいいし、病院に何を今してほしいかと聞けば、まあいろんな家庭の事情でうちへ帰れないということがわかっている方ももちろんあると思いますけど、ほとんどの人が「うちへ帰って死にたい」と、「うちへ帰りたい」と言うようです。ですから、そういうことを考えますと、うちに帰ることができなくても、その患者さんがアットホームな感じをもてるところでもって限られた命を共有して、伝えるべき感謝とか、人生のいろんな伝えるべきことがありますね、愛情を伝えあって、まずそのために患者さんが癒され、その患者さんが癒されたのを見て家族も癒され、心安らかな死というのはそういうことが完成されてはじめて達成されるんだと思うんですね。

私が「もうよろしゅうございますか」とお医者さまに聞かれましたのは、ほんとに亡くなる5分ぐらい前でした。それで私は病室に入れてもらいましたけど、もう、ゴーゴー、ゴーゴーという人工呼吸の音だけでした。それで「もうよろしゅうございますか」とお医者さまがおっしゃって、私も、もう主人は無駄な延命治療はいやだとさんざん言っておりましたので、「長いことありがとうございました」と申し上げて、「それでは」とおっしゃって、お医者さまが目で合図なすったんでしょう。それで若いお医者さまが人工呼吸のスイッチをバチッとお切りになりました。私はそのパチッという音を今でも覚えてますけどね。それで私が思わず時計を見ましたら、お医者さまが「あと5分ぐらい命がおありになります。人工呼吸の余波で、電気を切ってもまだ5分ぐらい余波がございます」とおっしゃいまして、改めて主人を見ましたら、マカロニ状態だったんですね、いわゆる。で、私は、このまま死なせてしまうのはあまりにもかわいそうだと思って、「それでは口やら鼻に入っている管をぜんぶ抜いてください」と申し上げました。それは30秒ぐらいで抜けましたけど、私、今考えても、ほんとにあのときに、よくそれを言えたと思うんですね。それはおそらく主人のほうに大変な悪条件のなかでしたけど、主人が何か伝えたいという気持ちが強くあったんだと思います。もう口はきけませんでしけど。それをやっぱりテレパシーで感じることができたんだと思います。それでもしあのまんま鼻や口に管が入ったまま死んだら、何のメッセージも伝わらなかったと思うんです。

 

 

 

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