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それから医療機具やなんかがいろいろ発達したので、なんかそれを医療の進歩みたいに思って誤認しちゃってるところもありますね。そういう患者のほうのそういうふうな考えもありますけれども、実際には末期医療の場合に「ご家族は出ていてください」と言われます。それで、いちばん愛する人がいちばん苦しんで、ですからいちばん手を握ってあげたり、体をさすったりして励ましてあげたい、いちばんそういうだいじなときに「ご家族は出ていてください」といわれて、病室から出されてしまいますね。それで、こんどは「もうご最後ですからお入りください」と言われたときには、ほんとのお別れまでに5分ぐらいしかない。そういうふうな、ほんとに非人間的なことが今、まだ、今もってどこの病院でも日常茶飯事的に行われていることなんだと思います。

それはどういう名目でそういうことがお医者さまに許されているのか、私にはほんとにわからなかったですね。

それで主人の場合には、最後の二カ月間ぐらい、主人は 177センチ、身長があるんです。かなり背の高い、大きい人でした。ですけれども、制限体重が39キロ、それを越すなという。その39キロというのは浅丘ルリ子さんがいちばん痩せてらしたときの体重だそうです。で、その39キロを越すなとおっしゃって、1日に飲める水の量というのが 250ccなんです。ですから牛乳瓶1本半ですね。そのなかには1回に8種類飲む薬の水も入っています。それから賄いで出てくるほかに食べる果物の水分。果物というのはほとんど95%以上水ですね。それから生野菜も、なるたけ口あたりよく食べさせてあげようと思うとどうしてもトマトとかそういうものになっちゃうんですね、夏は。でも、そういうものはほとんど95%以上水ですから、そういうものの水分とかというものもぜんぶ含まれるんです。そうすると主人が本当に好きで味わいたいコーヒーなんていうのはこれくらいのウイスキーカップに7分目というような生活がずっと続きました。

それで、我々素人というのはターミナルの現場にほとんど初めて立つ人が多いんですね。ですから、この患者がこれから先、どういうふうな経過を経て死に至るのかということを、まず知らないんです、ほとんどの人が。それをわかっているのはプロであるお医者さまだけなんですね。

ですから、私は、「この人は何かあったらいつでも死んじゃうかもしれない」という状態に至ったら、まあ亡くなる1週間前でも10日前でもいいですから、そういうときにはもうすべての制限を撤廃して、好きなことをして、好きなものを食べて、たとえばそのために三日ぐらい早く死ぬかもしれませんけど、それはやはりやってあげられることではないかと思うんですね。

 

 

 

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