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木場田 ホスピスで働く看護婦として、いろんなことを教えてくださっているのは、患者さんやそのご家族だと思います。

まず3つの事例をもとにお話ししたいと思います。

ある女性の患者さんは、クリスマスにご自分は動けない状態でしたので、通信販売のカタログで子どもさんたちへのプレゼントを選びながら泣かれていました。でも、その時おっしゃったのは、「最後だからというわけじゃないのよ。こうして子どもたちに自分が今してあげられることがうれしいの」と言われていました。プレゼントは最後の贈り物かもしれませんが、今、生きている、今してあげることができるということは、その人の生の証ではないかと思います。

また、ある男性の方は、次第に動けなくなって、「これじゃあ生きているのか死んでるのかわかりゃせん」とおっしゃる。この方にとって仕事ができなくなったということは、ある意味の人生の終わり、体の死だけでなくて心理的、社会的な死を意味していました。自分の価値を見失われたんだと思います。でも、ここで家族とか生活といった、今まで仕事に隠れていた部分という新たな一面が見えてきて、家族の支えを得て、こんどは夫として、父親としてという役割を見出して、自分が必要とされる存在なんだということを実感されたようです。

また、私どものホスピスでは、患者さんご本人、またはそのご家族と、患者さんが亡くなったときに着る衣裳というものを前もってご相談することが多々あります。「旅立ちの衣裳」と私たちは言っているんですけども、亡くなられるときにパジャマではなくて、その方がお元気だったときに着ていた、その人らしいお気に入りのお洋服というものを選んでいます。それによって最後の門出に備えるといった意味をもっていると思います。最近では、70代の女性が嫁いだときの白無垢を持ってこられて、「これを着せてちょうだい」と言われました。また、ある方は、友人がつくってくれたウェディングドレスを着られました。またある方はトレードマークのポロシャツとゲートボールのスティックを用意されました。そこには悲しみだけではなくて、「よくがんばられましたね。あなたの姿をみんなでしっかり覚えてます。ありがとう」という気持ちがこもっていると思います。

そして亡くなられたときに、ご家族といっしょにそういった衣裳を着せて、女性でしたら化粧をするなかで、「この人はね、この服を着てるときはこんなだったのよ」て、「今はちょっとベルトの穴が二つ三つゆるんじゃってるけど、恰幅がよくてねえ」とか、そういったお話を、少し笑みを浮かべながらいっしょに思い出を語ることができます。

 

 

 

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