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過去の出来事を変えることはもちろんできませんけれども、相手を許すことによって、自分自身をより豊かなものに変えることはできましょう。ですから、死ぬ前にはどうしても許しを得たりて許しを与えたりして他者と和解するということがだいじなのですね。

第三は感謝の表明です。感謝といいますと、ドイツ語で考えることはデンケン、感謝するはダンケンです。英語もトゥ・シンクは考える、トゥ・サンクは感謝することで、よく似ていますね。私たちは考えれば考えるほど、どれほどいただいたこと多いかに気がつきます。ですからどうしても、死ぬ前には感謝するということが大切ですね。

そして第四番目は「さよなら」を告げるということです。日本人はの礼儀正しいですから、長い旅行をするときは、まず大切な人にさよならを告げるんでしょう。死ぬというのは長い旅行と同じで、しばらくは戻らないわけですから、これも大事なことですね。

そして第五は遺言状の作成です。私は、たくさんの人から、あとで遺族の間で相続争いが起きて、裁判にまでなるのは、正規の遺言状がないからだと聞きました。きちんと遺言を書くことは遺族に対する最後の贈り物になります。

第六は、自分なりの葬儀方法を考えて、それを家族や周囲の人に伝えておくということです。ドラマの最後の幕はお葬式ですね。自分にふさわしいお葬式にしてもらうようにこころがけたいものです。たとえば、ドイツにはお香典の習慣はないんでが、お花代を贈ります。このごろは新聞の死亡広告にも、お花代の代わりに、そのお金を難民支援のためのこの銀行口座に振り込んでくださいとよく書いてあります。私のいちばん下の妹の主人のお父親さんもインドネシアのティモール島の恵まれない子どもたちのために寄付しました。彼はインドネシアに行ったことはないんですけれども、私のいちばん上の姉はもう40年間、ティモール島で貧しい人たちのために働いています。いちばん恵まれていない地域ですからたくさんの子どもが薬がない、医者がいないということうことで死んで行きます。彼は自分が死ぬ前にそうした子どもたちのために自分へのお花代を贈ることを遺言しました。私もときどき、東京近辺だったらお香典をピースハウスとか、聖ヨハネ・ホスピスへ寄付したらどうでしょうかと提案しています。私はお香典についての日本全国の調査をやったんですね。私の結果を見ますと、日本のほとんどの家庭は、もう十分なシーツやタオルを持っているそうです。ですから、お香典の半分をタオルで返しても、それほど喜ばれません。むしろお返しをやめてホスピスへ寄付しましたというお礼のカードを送れば、みんな喜ぶと思います。これが自分なりの死を全うするための六つの課題です。

 

 

 

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