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次は希望についてです。中世からの古い祈りに「神よ、私に変えられないことはそのまま受け入れる平静さと、変えられることはすぐにそれを行なう勇気と、そしてそれらを見分けるための知恵を、どうぞお与えください」というのがあります。これはすばらしい祈りの言葉ですね。人生には変えられないものもあるけれど、変えられるものもある。たとえば愛する人が亡くなることは変えられないものですね。しかし、そのあとをどう生きるかは、自分で決めることができるんです。それを見分けることも人生の大きな挑戦でしょう。

死後への希望に関して、私は先日ちょっとユーモラスな体験をしました。私は上智大学で毎週一回、一般市民のための講義もします。そこでキリスト教の魅力の一つは、奥さんなら死後に天国でご主人とまた会える希望があると言いました。そうしたら、後で一人の奥さんがとても困った顔で、「私がもしカトリックになると、本当に主人と天国でまた会わなきゃならないんですか」と聞かれました(笑)。これは私の大失敗でしたね。別な講演会で、講義の後に最近定年退職したという男の人が手を挙げて、「先生、私は、人間は死ぬとゴミになると思います」と言ったんです。私は「そういう考え方もあるんですねえ」と答えました。そのあとのパーティのとき、一人の奥さんが私のそばにきて、「先生、さっき死ぬとゴミになると言ったのは私の主人です」と言ったんです。こういうとき、日本語は曖昧さで逃げられますね。でも彼女はすぐ主人は最近定年で退職しましたが、本当の問題は、死ぬとゴミになるんじゃなくて、すぐに粗大ゴミになってしまったことです」と言ったんです(笑)。

最後は、心の絆を結ぶユーモアについてです。

日本でユーモアと言いますと、たいていジョークとユーモアを同じ意味で使うことが多いようですが、私はいつもはっきり区別します。ジョークは頭のレベルの技術で、ことばの上手な使い方とか、タイミングの良さですね。でも、きついジョークは相手を傷つけることがあります。ユーモアは心と心の触れ合いから生まれます。相手に対する思いやり、これがユーモアの原点ですね。ですから、豊かな第三の人生を過ごすためには、ユーモア感覚を身につけることが大切です。こうしたユーモア感覚を開発するには、広い視野と心のゆとりが必要ですね。あたたかい人間関係を築くためにも、思いやりと愛に満ちたユーモア感覚を開発することは大切です。

私はドイツでの子ども時代、「人間は笑うことができる唯一の生物だ」と聞いたとき、さっそくネコは笑うことができるかどうか、一つの実験をしました。そのころ、私は十二匹のネコを飼っていました。

 

 

 

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