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次は、悲嘆教育について少し話しましょう。私たちは、自分の死に直面する前に必ず祖父母や父母や、たくさんの身近な人の死を体験します。フランス語に別れは小さな死という言葉があります。私たちの人生に必ず別れがある。それは残された人にとっても一つの死ですね。失ったあとをどう生きるか、そこで悲嘆のプロセスへの理解が必要になります。奥さんが先に亡くなれば、残された男性の死亡率はだいたい四倍になります。ですから、その前にそれについて少しでも考えて心の準備をしておければ、予防医学としての役割も果たせるんじゃないでしょうか。

「大きな苦しみを受けた人は、恨むようになるか、やさしくなるかのどちらかである」という言葉のとおり、恨むだけでもうぜんぜん立ち直らない人もいますが、それによってやさしくなる人も多いんです。他者の苦しみに深く共感できるようになれるんですね。

第三の人生における生きがいと希望についてです。生きがいというときに、私たちは何に意義を見いだすでしょうか。もちろんただ長生きすることも一つの意義かもしれませんが、私はそこで第二次世界大戦中のドイツで反ナチ運動の精神的なリーダーの一人であったアルフレッド・デルプ神父の言葉を思い浮かべます。彼は非常に創造的な哲学者でしたけれども、ヒットラーの命令で37歳の若さでベルリンで処刑されました。彼は、死ぬ直前に、ベルリンの刑務所でこういう美しい言葉を残しました。「もし一人の人間によって少しでも多くの愛と平和、光と真実が世にもたらされたなら、その一生には意味があったのである」。人間はどれほど長く生きるかよりも、どれほど意義のある人生を過ごしたかということのほうが大切ですね。この言葉は私たちが毎晩寝る前に、今日一日を、本当に意義ある一日としてすごしたかを考える手がかりにできましょう。私の今日一日の努力によって、少しでも多くの愛と平和、光と真実が世にもたらされたとしたら、意義のある一日を過ごしたと言えると思います。けれども、もし愛のかわりに夫婦喧嘩をしたり、平和のかわりに隣りの奥さんと争いを起こしたり、あるいは光のかわりにペスシミズムを広めたりしたとしますと、その日は意義のある一日ではなかったと反省しなければなりませんね。

ですから、これからの大きな課題として、定年退職のあとの長い人生を、意義のあるものにすべきです。たとえばボランティア活動があります。アメリカで高齢者で10年間調査したところ、ボランティアをやっていない人と、ボランティアをやっている人とを比較すると、ボランティアをやっている人が 100人が亡くなれば、同じ10年間に、何もボランティアをやっていない人は 250人、つまり二倍半も多く亡くなったそうです。

 

 

 

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