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これでまずプラス6年ですね。そして、毎日歌をうたう人はプラス4年だそうです。私も毎朝、シャワーを浴びながら三つの歌をうたいますから、プラス4年になります。そしてユーモアのある人はプラス5年になるそうです。この間、ぜんぶ計算したら、137歳になりました。もしかしたら日野原先生よりも長生きする可能性があるかもしれませんね。

ですから、肉体的な面での延命は日本の医療の大成功ですが、では、二一世紀の日本の医療や看護に対する挑戦は何でしょうか。これからは肉体的な面での延命と同時に心理的な面での延命、社会的な面での延命、そして文化的な面での延命を図ることです。言い換えれば総体的な延命を考えることがこれからの大きな挑戦になると思います。これはもちろんホスピス運動とも関係があります。ホスピスは総体的延命を重視します。ただ肉体的な延命よりも、最後までクォリティ・オブ・ライフ(生命や生活の質)を重視するのがホスピス的なアプローチですね。

そこで次にクォリティ・オブ・ライフについて考えたいと思います。クォリティ・オブ・ライフを高めるには、音楽療法、読書療法、芸術療法、作業療法、アロマテラピー、ペット療法など、さまざまなアプローチがあります。これらはぜんぶ生命や生活の質を改善するための新しいホスピス的なアプローチですね。

日本の音楽療法のパイオニアはもちろん日野原先生でね。今、日本でもどんどん広まっています。長年私は、上智大学の管弦楽団の顧問をしています。20年ほど前ですが、ドイツの名指揮者カラヤンが、来日中に偶然の機会に上智大学へ来てオーケストラの指揮をしてくれました。そして上智のオケをけっこう高く評価して、翌年ベルリンの青少年音楽祭に招待してくれたんです。私も 100人の学生といっしょにベルリンへ行って、フィルハーモニー・ホールでの演奏会に立ち会いました。そのときも、カラヤンの指揮でした。皆さんが想像できるでしょうが、そのとき 100人の学生にとって、フィルハーモニー・ホール、カラヤンの指揮で演奏した曲は生涯特別な意味をもち続けますね。その曲を聞く機会があれば、大学時代の思い出のハイライトとして、そのときのことを鮮明に思いだすでしょう。

私たちは末期患者や、老人ホームの方々にも一つの大きなプレゼントをできるかもしれません。音楽によって、自分の過去の美しい日々の幸せを再体験することができますね。皆さんもそうでしょう。たとえば、結婚式のときみんなが歌ってくれた曲とか、あるいははじめて聞いたオペラのアリアとか、恋人と初めて踊った曲などは、その人生に大きな意味をもっていますね。末期患者にとっての、一つの問題点はペシミシズムに陥ってしまうことでしょう。

 

 

 

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