これについては、報告後に討議が集中し、また、会議最終日のACの場においてもご議論いただいたようである。このような分類を示した意図は、氷工学が他の船舶流体力学の分野に比べて歴史が浅く、特に、前述のアンケート結果にも見られるように、実現象に対する理解が充分ではない項目に対して標準試験法的なものを提案することはかえって後の混乱を招くことを恐れた点にある。このような我々の考えは、最終的にはご理解をいただいたようであり、今後氷工学の発展に伴って将来全ての項目がカテゴリー1]に分類される日が来ることを願うものである。
Committee on Stability
浜本剛実(福井工大)
本特設委員会の最終報告は上海の本会議場において、9月10日の最初のセッションで行われた。委員長のD. Vassalosの全般的報告の後、東京大学の藤野教授、MARIのMr. R. P. Dallinga, Australian Maritime CollegeのMr. G. Macfarlan, I. N. SEA. NのBulgarelli教授から4件の書面討論と3件の口頭討論があった。
本特設委員会の構成委員は委員長のProf. D. Vassalos (University of Strathclyde)、セクレタリのDr. M. Renilson (Australian Maritime College)、Mr. A. Damasdaard (D. M. I.)、Dr. De Kat (MRIN)、Prof. A. Francescutto (university of Trieste)、Prof. H. Q. Gao (China Ship Scientific Research Centre)、Prof. J. Matusiak (Helsinki University of Technology)、Mr. Molyneux (Institute for Marine Dynamics)、Prof. A. Papanikolao (National Technical University of Athens)と浜本(福井工業大学)の10名である。今回の会議にはMr. A. Damasgaard、Prof. A. Francescutto、Prof. A. Papanikolauの3名が欠席のため7名が出席した。
任期中の3年間にトロンハイム、大阪、クレタ島、セントジョンズの4回の会合と船舶復原性に関するワークショップを行い、タスマニアでは報告書編集のための委員長とセクレタリの会合と合計5回の会合を持った。これらのワークショップは関係各国における船舶の非損傷時復原性及び損傷時復原性に関する研究の促進と新たな活路と展開を見出すことを目的としたもので、これらの成果は従来の研究成果と合わせて、本特設委員会の報告書にState of the Artsとしてまとめられている。
本特設委員会の中心課題は海上における船舶の安全性を担保する技術の確立であり、主要な技術的項目として、非損傷時船舶の転覆模型実験法と数値シミュレーション技術の標準化、損傷時船舶の転覆模型実験法と数値シミュレーション技術の標準化が取り上げられた。非損傷時船舶の転覆模型実験は日本造船研究協会RR 71研究部会が追波及び斜め追波中を航行する船舶の操船ガイダンス(IMO MSC Circular 707)を作成するために、船舶技術研究所及び水産工学研究所で実施したコンテナ船の自由航走模型実験がベンチマークテストのガイドラインとして推奨されている。損傷時船舶の転覆模型実験はDMI、MARINTEK、University of Strathclydeで実施したパッセンジャーカーフェリーNORAの模型実験がベンチマークテストのガイドラインとして推奨されている。また、数値シミュレーション技術の標準化については数値シミュレーションの数学モデルに関するアンケート調査の結果、25機関から耐航性理論に基づくモデル、操縦性理論に基づくモデル及び両者の結合モデルについて回答があり、さらに分析的検討が必要である。前記の書面及び口頭討論もベンチマークテストと数値シミュレーション技術の一層の発展及び実用化に関するコメントであり、本委員会としても同感である旨の回答があった。
本特設委員会の名称は今期限りで、次期は名称がSpecialist Committee on Prediction of Extreme Ship Motions and Capsizingに変わり、内容はより絞り込んだ厳しい作業が要請された。次期本特設委員会ではDr. De Kat、Prof. A. Francescutto、Prof. J. Matusiak、浜本の4名が辞任し、新委員として日本から大阪大学の梅田助教授が選ばれ、上海での第一回の会合で、委員長にProf. D. Vassalos、セクレタリにDr. M. Renilsonが選出され、7名の委員で組織されることが決まり、第一回の会合は2000年2月14と15日にタスマニアのAMCで開催の予定である。また、重要課題として非損傷時船舶と損傷時船舶のベンチマークテストが取り上げられ、それぞれのコーディネーターを梅田助教授とProf. D. Vassalosが務めることが諒承された。
本委員会の成果は国際海事機関(IMO)が勧告する船舶復原性基準に反映されることが最終目標の一つであり、海上における船舶の安全性及び海洋環境の保全を図る上で、基準の内容は船舶の設計、建造、操船、運用を通して合理的かつ国土国情の異なる各国が受け入れ可能なものでなければならない。この観点からも、引き続き専門家による特設委員会が設けられたことは意義深い。今後の発展を期待する次第である。