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一つは果たして安定的かという問題であり、今一つはどれだけの負担があるかということである。前者においては繁殖犬としての利用年限を考慮すると数年毎に更新が必要になるし、受胎率・出産頭数によっては予備の繁殖犬とその交配計画も必要となる。また、生まれた犬が質の面で訓練犬とはなり得ないこともある。そのため日盲社協年次報告98では、盲導犬訓練施設8法人が平成10年度に寄贈・購入等で得た繁殖犬と訓練(候補)犬の数は101頭にも及ぶと報告している。これらから、数の上では足りていたかのように見える繁殖頭数もかなりの量の外部導入が必要で、8法人が持っている繁殖システムだけでは安定的に供給できないことがわかる。そのうえ相当数の外部導入があるにも関わらず、本調査では、繁殖上で盲導犬訓練施設が抱えている問題として、繁殖犬が少ない状況にあり入手が難しいことが挙がっており、盲導犬の安定的な供給とは何かを改めて考えさせられた。

次に後者の負担の問題であるが、盲導犬訓練施設の負担とともに誰がこの繁殖システムの責任を負っているのかを考える必要がある。日盲社協年次報告にはその項目はなく、スタッフの誰かが兼任していると推察される。繁殖と人材がこの事業の根幹であるならば、本調査の中で訓練士が求める分業・特化はこの分野で必要となろう。しかし、現実には一盲導犬訓練施設だけの必要頭数を確保するためにこの部門を設けるには負担が多く、本調査で繁殖専門員を将来配置したいと答えながらも、同時に共同繁殖センターの必要性を考えている。

 

(2)繁殖犬の維持・改良とペアリングの研究

数の供給だけでは盲導犬の供給は安定しない。結局、繁殖システムの役割はいかに盲導犬の質を高め維持するかということになる。通常、台雌は1歳を過ぎ8歳位まで繁殖犬として働くが、その役目は数だけでなく質の供給にある。種雄とのペアリングによりその質は大きく左右され、仔犬へと引き継がれる。盲導犬に適した気質を計画的に後継したり、改良することはさらに難しく、その結果次第で事業体の数年先が決定されることもある。

各盲導犬訓練施設はこの点を重要視し、それぞれの繁殖システムの中で「優れた繁殖犬は外部から導入するのではなく、各訓練施設内で作り出すものである」と考えているが、専門職の配置なしにはこの問題は解決されないと思われる。

現在のところ、繁殖計画を立てるスタッフは本来の業務に忙殺されるため、結果的に安易な導入を繰り返すことになっている。本調査で明らかになった繁殖上の問題点は「導入した犬のあたりはずれ」「優秀な犬の確保」など組織的・専門的に取り組まなければ解決できないことが自明でありながら個々の組織では対応しきれない点に集約できる。盲導犬の質についての研究や改良に必要な人件費・施設維持費、それに改良の過程で生じる剰余犬(改良プログラムに組み入れる事が出来なかった犬)の処遇の問題まで手が回らないというのが現状である。

 

 

 

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