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オニヒトデは、ここ30年来、サンゴ礁生態系にとって最も深刻な脅威の一つであった。しかし、オニヒトデに関する研究や対策は継続性に乏しく、場当たり的に単年度毎に実施されてきたにすきない。この状況から以下の点を提案したい。

 

1] まず、オニヒトデの生物学的特性にはまだまだ不明な点がある。たとえば、幼生、稚ヒトデの各段階における減耗とそれを決定する要因を探る必要がある。特に、プランクトン幼生の定量的な観測手法の開発、幼生の着底を誘引するメカニズム、自然のサンゴ礁における稚ヒトデの行動特性などである。これは一朝一夕には解明できない問題であり、焦らず着実に研究を進めなければならない。これらの研究を通じ、サンゴ礁の理解が深まり、その理解は科学的知見に基づいた保全や管理を可能にすると期待される。

 

2] 将来的にはオニヒトデの大量発生の原因が特定され根本的な解決策が見出せるかもしれないが、それまでの間は対症療法的な対策を講じるしかない。つまり、より効果的な駆除のために以下の諸点が重要になる。

a. どこを守るべきなのかを明確化する。

b. オニヒトデの動態を含めて、サンゴ礁の変化をモニターする実現可能な手法を確立する。

c. サンゴ礁に関する情報(駆除に関するものも含めて)を誰がどう管理するのかを決める。

d. どのような体制で、どの機関が駆除を担当するかを決める。

e. よりよい駆除方法の研究を継続する。

これらの実現に向けた具体的な検討を開始しなければならない。その際に必要な情報を収集するための研究を継続する必要がある。

 

3] さらに、上記の1、2を推進するためには、さらにその基礎を築かなければならない。オニヒトデの問題、さらにはサンゴ礁保全の基本として、サンゴ礁が沖縄にとってどのような価値があるのかを把握しなければならない。その理解があってこそ、サンゴ礁を保全する意味が共有され、住民の支持を得ることが出来る。サンゴ礁の価値が認識されれば、それを保全するための総合的な管理のありかた、問題点の洗いだし、そのための学際的な情報収集・研究、優先順位の議論、実施体制、それらをサポートする体制についての議論の土台ができる。そのようなサンゴ礁の保全と利用という議論の中ではじめてオニヒトデの問題の重要性を把握できる。オニヒトデ問題にはオニヒトデに詳しい生物学者による基礎研究が不可欠であることは言うまでもない。しかし、生物学的知見だけでは決して十分ではなく、サンゴ礁と関わる社会・経済のあり方や保全政策の方向性、政策決定における住民参加などの広い視点からの取り組みが必要である。

 

 

 

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