日本財団 図書館


また、長期的なモニタリングによりこれらの変数の時間的空間的な変動の幅を把握する必要がある。これらの変動幅についての情報がなければ、サンゴ礁で発生する事象のうちの何が異常で何が自然の振幅の範囲内であるか判断することが出来ないからである。これらのことは、オニヒトデの大量発生を理解する上で重要である。

過去に実施されたオニヒトデ駆除事業の結果は、広大な面積のサンゴ礁をオニヒトデの食害から守るのは不可能であることを示している。したがって、何らかの優先順位により、守るべきサンゴ礁をあらかじめ選定しておく必要がある。たとえば、学術的に重要な地点、サンゴ礁生物の幼生の供給源として重要な地点、観光業や水産業に関して重要な地点を選定するための客観的な情報の収集が急務となる。

以上の見地から、サンゴ礁をオニヒトデの食害から守るためには、

1] 優先的に保全する必要がある地点を選び、パトロールする。

2] オニヒトデの調査・駆除・評価などを担当する専門機関を含む体制を構築する。その際に、必要があれば複数の行政機関が連携をとれるようにし、

3] オニヒトデやその駆除方法についての研究を継続し、より有効な方法を検討する。また、モニタリングと迅速な対応ができるようなコントロール・チームを組織することも有効であろう。さらに、

4] オニヒトデの駆除は、効果が確実になるまで継続して行う、

などの点を検討する必要がある。実は、これらは、25年ほども以前(1970年代なかごろ)に当時の沖縄県観光開発公社(1976)や環境庁(1974)の報告書で提案されている事柄なのである。ここで指摘されている諸点は、ほとんど、現在にも当てはまる。いわば、問題は、オニヒトデの問題が初めて生じた四半世紀前に既にかなりの程度明確化されていたにもかかわらず、具体的な解決には向かわなかったということ自体にある。つまり、最も重要な方向として、オニヒトデの分布状況やサンゴ礁にとって重要なさまざまな情報を集め、必要に応じ研究を行い、場合によっては、駆除を企画するような継続的な体制を構築することが挙げられるが、そのような体制は、海中公園など一部(例えば、八重山サンゴ礁保全協議会)を除いては、まったく前進していないのが現状なのである(横地1998、環境庁1999)。特に、上記のふたつの報告書とも、行政機関の壁を超えた連携を提案しているにもかかわらず、この面での進展が認められないのは実に印象深い。

これらの点を十分反省しなければ、状況が打開されることはあるまい。それは、このマニユアルの活かしかたにも関わってくる。危惧されるのは、サンゴ礁が劣化して行く中で、実行に結びつかない提案が何年か毎に思い出したようになされるだけで21世紀を過ごすのではないかということである。

今必要なのは、実現可能な、具体性のある政策提言を作り出すことである。そのためには、単にオニヒトデに関する生物学的な知見を蓄積すればすむというのではない。社会科学的な視点から、生物学と立法・行政とを連携させるような取り組みが必要となろう。また、県民や観光客を対象にサンゴ礁とオニヒトデの間題を理解してもらうための啓蒙普及が重要である。しかし、現在、それに役立つ一般書あるいはパンフレットのようなものすらも日本語で書かれたものは存在しないのが現状であり、早急に対処する必要がある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION