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そこで、いくつかの仮定に基づいて、実際のオニヒトデの個体群密度の変動がどうであったかの推定を試みる。まず最初の仮定は、A域での駆除と、B域での第1回目の駆除の翌日の観測でオニヒトデ密度が約1/200m2であったことから、B域での第2回目及び第3回目の駆除によってオニヒトデの密度は同様に駆除直後には1/200m2まで滅少したものとする。さらに、次の二通りのシナリオを想定する。

シナリオ1では、駆除後のオニヒトデ密度の上昇率が一定であるという仮説を立てる。つまり、繰り返し駆除を行ったB域で、第2回目の駆除(10月28日)の前後、10月8日と10月11日の観測の間でオニヒトデ密度の上昇率が一定であったと仮定する。これらの仮定に基づいた密度の変動の推定を図3に示す。しかし、この図によると、駆除個体数が駆除前の密度に反映されていないという問題がある。73匹駆除の直前のほうが231匹駆除の直前よりも個体群密度が高く推定されていて不自然といえる。

ここで別のシナリオをたてる。シナリオ2は、個体群密度と駆除数は互いに比例関係にあり、駆除後に密度は1/200m2まで低下するものとする(しかし、駆除後の密度上昇率は一定ではないと仮定)。この仮定によると図4のようになる。

シナリオ1に従って、密度の変化率が実験期間を通じて一定であったとすれば、次のことが言える。A、B両域で駆除後に個体群密度の再上昇が見られるが、大量の駆除努力量を一度に投入したA域では上昇速度が緩やかであり、しかも全期間約6週間経ても駆除以前の密度にまでは回復しなかった。一方、予想に反して地域による密度上昇率の差異が認められた。B域では、A域よりも急激に密度が上昇した。この密度上昇速度の違いは、A、B両域のサンゴ被度の違いを反映したものかもしれないし、あるいはそれ以外の要因によるものかもしれない。B域ではオニヒトデ密度が急激に増大しようとするが、頻繁な駆除によってそれが妨げられているように見える。

一方、もしシナリオ2のように単位努力量あたりの捕獲率が一定であったとすれば、次のことが言える。A、B両域で第一回の駆除後に同程度の個体群密度の再上昇が見られる。しかし、A域では当初の約半分の密度で上昇が収まったかに見える一方、B域での密度上昇は当初11月上旬まではA域と同様なであったものが11月中旬から急激に高まった。これらのことから、オニヒトデ駆除後に個体群密度が回復してゆく速度は未知の要因により時間的地理的な変動をしめす。未知の要因による密度変化は、対照区C域において有意差はなかったものの密度が変動していることからも支持される。

 

 

 

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