日本財団 図書館


移動の向きは第1日目と近い方向の個体もあれば直角に方向を変更したものもあった。1日目から2日目にかけての移動をべクトルで表すと、(x,y)=(1.6,3.0)と非常に小さな大きさ(3.4m)となる。また、第1日目の移動のベクトルの方向とはほぼ逆方向であった。

4日目には7個体のうち2個体のみ(図5)追跡できた。2日目から4目目までの移動速度の平均は13.8m/day±0.6SEであり、そのベクトルの合計は(x,y)=(6.5,-4.0)であった。6日目は1個体のみ追跡することが出来、その移動速度は22.0m/dayであり、この個体が6日間で移動した距離は合計75mにのぼった(図6)。

 

(4) 考察

オニヒトデが非常に早く、最大70m/日(平均27m/日)の速度で移動することから、守るべき駆除区の周囲に緩衝帯を設けてそこを定期的にパトロールするとした場合どれだけの幅の緩衝体をどのような頻度で探索する必要があるかを考察する。ここで、一定数のオニヒトデが全個体緩衝帯上を駆除区に向かってまっすぐ侵入してくると仮定して、その95%をその間に補足するのに毎日パトロールする場合に、必要な緩衝帯の幅を求める。移動距離が正規分布に従うとした場合、平均±95%区間、つまり平均±SE×t0.05となる。この場合、27±5.0×2.0、したがって37mもの緩衝帯が必要となる。週1度のパトロールを行うとすると37m×7=約250mもの緩衝帯が必要となり現実的ではない。もっとも、現実には、駆除域周辺のオニヒトデが全てまっすぐに侵入してくることはありえないであろうから、この幅は最大の見積といえる。

移動速度が最大70m/日(平均27m/日)という値を、過去に報告された事例と比較してみる。Glynn(1977)はフリソデエビに攻撃されるとオニヒトデは1m/minという高速度で移動することを報告している。また、Pearson and Endean(1969)砂地の上ではサンゴ群集の上でよりも早く移動(20m/hour)することを観察した。さまざまな報告から、オニヒトデ成体の移動速度はおよそ5〜10m/hour、最大20m/hour(Moran 1986, Yamaguchi 1973)で移動する能力を備えているようである。

以上は、短期間の最高速度であるが、一方、長期的な観測によると、最大580m/week(83m/day)(Road & Ormond 1971 cited in Birkeland & Lucas 1990)、また1km/month(33m/day)(Chesher 1969)や20〜50m/20days(Cheney 1974 海洋公園センター1984に引用)という報告がある。Birkeland and Lucas(1990)は、速度に影響を及ぼす要因として温度を挙げている(高温域のGuamではより低温のHawaiiでよりも移動速度が大きい)。また、Branham et al.(1971)は、オニヒトデは生サンゴの被度の低いところでは0.6m/hour(24m/day)、高いところでは0.25m/hour(6m/day)の速度で移動したと報告し、サンゴ被度あるいは餌の状況が移動速度に影響をあたえていることを示した。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION