現在、オニヒトデの棘で番号を振ったプラスティックのテープ(約2cm角)を刺すという簡便な方法が比較的頻繋に用いられている(Keesing & Lucas 1992)。これは、決して完全な標織方法とは言えないが、オニヒトデを傷つけることもなく、複数の標織を付けておけば2〜3日くらいであればかなりの確率で、少なくともひとつの標織が残っていて同定できるといったものである。より確実な標識方法の開発が強く望まれる。
海中公園センター(1984)の西表島で放流実験では、a.114個体を放流し、1、9、21日後に61、50、45個体を、また、b.90個体を放流し、1、10日後に43、34個体を確認した。第一回目の放流で21日後に全個体の中心が起点より3m移動したことから、オニヒトデ集団は1ヶ月に5m、1年で約55m移動するとした。この値は、1980年に網取に出現した集団が1年間に2から3km移動した距雌と比べて非常に小さい。また、Ormond and Campbell(1974*)は紅海でオニヒトデ個体が最大80m移動し、また、オニヒトデ集団としてはその移動距離を約100m/月と見積もっている。さらに、Cheney(1974*)はグアムでの観察で約20日間で30から50m移動したと報告している。海中公園センターの報告で移動距離が小さかった理由として、遠くまで移動した個体を再捕獲するのが困難であろうことと、深場へ移動した個体を探すのが(ダイバーの安全のために)困難であることを挙げている。
また、オニヒトデは波浪を嫌う傾向がある(Chesher 1969, Campbell & Ormong 1970, Ormond & Campbell 1974*)ので、波浪の激しい沿岸ではオニヒトデはより深いところに生息する。また、夏の間はサンゴ礁の浅いところ、冬になると深いところへと移動するという報告がある。このことは、冬季の北よりの季節風による影響を表しているのかもしれない。波浪を嫌うためか、外洋に面した浅い礁原部のサンゴがオニヒトデの食害を受げずに残っていることが報告されている(海中公園センター1984)。
Ormond and Campbell(1974*)は実験的にサンゴが分泌する物質がオニヒトデを誘引すること、さらに、サンゴとそれを摂食中のオニヒトデが分泌する物質がオニヒトデを誘引することを示した。この物質は、複数の小分子量の物質と大分子量の物質の混合物であると推定した。さらに、海中公園センター(1984)は、Y字型の水槽を用いた実験で、オニヒトデはストレスを受けたサンゴが分泌した粘液に誘引されることを示した。サンゴは物理的な損傷やオニヒトデによる食害のほか、塩分低下、泥粒子、底酸素海水、汚染物質、高濃度浮遊物などにより粘液を分泌すると推定される。
6] 捕食
これまでオニヒトデを捕食する動物種として、ホラガイ(Chesher 1969)、フリソデエビ(Glynn 1977*, 1982*)、フグの一種(Ormond and Campbell 1974*)、モンガラカワハギ(Ormond & Campbell 1974*)、ハタの一種(Endean 1976*)、オウギガニの一種(Lucas 1975*)、ウミケムシの一種(Glynn 1982*)、クラカオスズメ(Pearson & Endean 1969*)などが報告されてきた。