3] 幼生の定着からサンゴモ食期への変態
オニヒトデ幼生は、定着に適した場所が見つからない場合、定着の時期を遅らせることができる(堀越 1973*)。しかし、着底を遅らせた場合、着底基盤に対する選択性が曖昧になる。そのため、定着後の生育に不都合が生じる可能性が高くなる(波部ら 1989)。
小椋ら(1985)は1984年に初めて自然でのサンゴモ食期の稚ヒトデを西表島網取湾で採集した。稚ヒトデは、礁斜面のサンゴ礫堆積物中から見つかった。その後、この海域でサンゴモ食期の稚ヒトデの分布・密度・成長・食性変換などについて報告されている(Yokochi & Ogura 1987;Yokochi et al. 1988*)。
横地(1995)は、サンゴ礁の礁斜面の窪みや、縁溝床上のサンゴ礫が堆積し安定していてサンゴモがよく繁茂しているところで水深2〜10mに比較的多くサンゴモ食期の稚ヒトデが見つかったと報告している。特に、サンゴ礁石灰岩、サンゴ骨格、サンゴ礫が堆積し緩やかに固められた表面がLithothamnion australeによって覆われているようなところに多い。この種のサンゴモを観察すれば、その表面に見られる食痕によって稚ヒトデを比較的容易に探索することが出来る。サンゴモ食期の稚ヒトデは体躯中央の口から胃を反転させて摂餌するので個々の食痕が明瞭に円形に白く残りがちである。摂食後数日以内の新鮮な食痕は薄い緑色であるため、その近辺を探索すると稚ヒトデが見つかることが多い。食痕の見つかるサンゴモは、5属10種の無節サンゴモと1種の有節サンゴモであった(横地 1995)。
横地(1975)はサンゴモ食期稚ヒトデの密度の年変化が観察されたことから、稚ヒトデの密度を継続的に調査することによづてオニヒトデの大量発生を予測することが出来るようになったとしている。これまでは、突然に大量の成体がサンゴ礁を埋め尽くす事態になっではじめて大量発生に気付いたのであるが、稚ヒトデをモニターすることによって、どのような条件下で、どのような過程を経て大量発生が起こるのか、その機構を解明する可能性をもたらした。稚ヒトデの高密度分布が発見されれば、成熟までには2年間の猶予があるので、駆除計画の策定に必要な準備期間を得ることが出来る。それにより、サンゴを大々的に食害する以前に未成熟な個体を駆除する体制を整えることができると期待される(横地1998)。
一方、Zann et al.(1987, 1990)は1979年からフィジーで稚ヒトデの分布密度を継続的に調査し、大量加入が特定の年に起こることを報告した。さらに、1984年に大量に発生した年級群に関し、月齢7ヶ月以後の稚ヒトデから成体までの成長と密度の変化を追跡することに成功した。
また、棘皮動物の定着量を調査するためのトラップを用いて、早期の稚ヒトデを捕獲した報告がされている(Keesing, Cartwringht & Hall 1993)。この方法は、オニヒトデ幼生の定着率のモニタリング手段として将来的に有望かもしれない。
4] 自然界での成体の成長
現在のところ、Zann et al. (1987, 1990)のフィジーでの調査がサンゴ礁でのオニヒトデの成長を長期に追跡した唯一の例である。サンゴモ食期からサンゴ食期へ移行の際に、何が刺激になっているのか、捕食を免れるチャンスはどれほどかといった点について研究が待たれる。現在分かっているのは、a.サンゴモ食期の稚ヒトデの成長は緩やかであり、b.サンゴ食期になると成長は速くなり、c.成熟後の成長は綬やかであるということである。