オニヒトデは受精から着底までは14〜28日を要す。その間に、海流によって移動する(Sheltema 1986)。沿岸域の動物ブランクトンは一般に潮汐に対応して鉛直方向に移動することにより、沿岸域に留まる傾向がある、あるいは、一旦外洋に出たものが沿岸に戻ってくる傾向がある(波部ら1989)。
餌の問題
オニヒトデは典型的な小卵多産型の生殖生態を持つ。このような海産無脊稚動物の個体群の動態は生活史の初期の段階における生存率に大きく影響を受ける。オニヒトデは孵化後、ビピアンナリア期、さらにブラキオラリア期を経て2−6週間で変態する。ビピンナリア期までは餌がなくても成長する。ビピンナリア期から先への変態には0.4μg/L以上の植物プランクトン濃度が必要と実験室内飼育で示された(Lucas 1982*)。
これに対し、オニヒトデの幼生は、植物プランクトンだけでなく、溶存有機物(Dissolved Organic Matter-DOM)を表皮から吸収して利用したり、粒子状有機物(Particulate Organic Matter)およびバクテリアを食べる可能性もあると反論された(Stephens 1968*, Rivkin et al. 1986*, Okaji, Ayukai & Lucas 1997)。Olson(1987*, 1988*)は海中に設置した飼育装置で幼生を飼育し、その飼育に使われた海水(飼育器の外部)のChl.a濃度が0.4μg/L未満で変態することを示し、幼生飢餓説を否定した。
しかし、Okaji(1996*)はOlsonの飼育器の内部でクロロフィル濃度が増大しているのを突き止め、Olsonの実験の問題点を指摘した。Okaji(1996)やAyukai, Okaji and Lucas(1997)はまた、オニヒトデ幼生は2μm以上のサイズの餌を必要とすることを実験的に確かめた。さらに、オニヒトデ幼生が成長するためにはクロロフィル濃度で0.5μg/L、成長が最大になるのは0.8μg/L(Critical Food Concentration)であることを示した。
Okaji(1996)はさらに、天然海水で飼育したオニヒトデ幼生の胃から直径1-2μmのらん藻と3.6-4.6μmの植物プランクトンを観察し、ろ過率からオニヒトデ幼生は直径2μm以上の植物プランクトンを選択的に採餌することを示した。また、餌となる植物プランクトンのサイズの上限は幼生の食道の太さ(40-60μm)であると推定される(Yamaguchi 1973)。
GBRのリーフ部分でのクロロフィル量はオニヒトデが生存・成長できるぎりぎりあるいはそれ以下の濃度であった(岡地 1998)。これらのことから、オニヒトデ幼生はGBRでは餌料制限を受けていると推定される。オニヒトデの異常発生と富栄養化を関連つけるためには、さんご礁周辺の潮流や海流、オニヒトデの産卵期におけるサンゴ礁への陸域からの栄養塩の流入、植物プランクトンの濃度分布・変動、オニヒトデ幼生の分布などを知る必要がある。