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実習を迎えるにあたって、実際に御遺体に対面した時に耐えることができるのかどうかという不安で一杯であった。そして当日、その不安は的中し、緑のシートを取り、白いブランケットに包まれた御遺体のお顔を見た時、何とも言われない緊張感に押しつぶされそうになり、今にも泣きそうになった。そしてその日はよく分からないうちに実習が終わったような感じであった。このように、学問的興味よりも、恐怖感のようなものの方が大きいという状態で初日を終えたわけだが、四、五日するとこの恐怖感にも慣れたのか、あるいはしっかり勉強しなければという意志が強くなったのか、耐えることができるようになった。しかし次の壁が立ちはだかった。それは言うまでもなく、皮下組織、特に脂肪組織であった。これは実習の最後まで付いてまわったのであるが、とりわけ最初の頃は脂肪組織の中に埋もれている筋肉、神経、血管などを剖出することは自分には到底不可能なことのような気がしていた。転機が訪れたのは、側頸部の解剖であった。レポートを描くという目的もあったため、気合いを入れて作業を行なった。広頸筋をひるがえし、浅層から少しずつ脂肪組織やリンパ組織を除去しながら深層へと剖出を進めていくにつれて、その中に埋まっていた、膨大な数の筋肉、神経、動脈、静脈などを一つ一つ剖出、同定し、それが全体としてつながって見えてきた時は大いに感動し、大きな充実感を得ることが出来た。それをきっかけに、頑張れば何とかなるのではないかと考えることができるようになり、最後までやり遂げることが出来た。

 

 

 

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