解剖学実習を終えて
天野利彦
初めて実習室に入って何十体もの御遺体を目にした時とても驚いたことを今でも覚えています。元々人間の死というものに悲観的な印象を持っていた私にとって目の前にある御遺体を解剖していくことに抵抗を感じたことを覚えています。実習を進めていくにつれてその生活がだんだん普通になってきたことに我ながら驚いたことも覚えています。しかし私はこのように感じていくにつれて、あらためて自分が医学部に入った目的をよくよく考えるようになりました。それは自分の身内に病人が多く、それを見てそれらの病気を治したい、そしてそうすることによって彼らがより長く生き、楽しい時間を少しでも多く過ごして欲しいということでした。私は実習の忙しさにかまけてそういったことを忘れていたように思います。長い教養の生活を終え大事なことを忘れていた私に、それを思い出させてくれたという意味で解剖実習はとても有意義なものであったように思います。
また解剖実習で最も大切なことは、これから医者として生きる私達にとっての基礎にあたるところの知識を得ることであるのはいうまでもありません。過密なスケジュールの中でこれらのことをいっぺんに覚えることは私にとって決して容易なことではありませんが、献体して下さる方の遺志と犠牲に恥じないように努力してきいたいと思います。