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二ヶ月程経過した頃、解剖が始まったころの不器用な手つきから比べると自分でも上達してきたのが分かりました。そんな折、骨盤の中の動脈をなかなか出すことができなくて解剖室に午後一〇時ぐらいまでいました。いつもは多くの学生でざわついているはずのその部屋に自分しか残っていない状況でした。私の解剖する音と空調設備の音以外何も聞こえませんでした。解剖が始まって以来、「気持悪い」と思ったことは一度もありませんでしたが、今自分は二〇体程の御遺体に囲まれていると思ったとたん、急に足のすくむ思いがしました。しかし、御遺体にはそれぞれ家族があり、様々な人生のドラマがあったことを思うと、何か人間の心の深い所にある優しい霊気に包まれた気持になり、生まれて初めて自分が人間なんだ、自分が人間として生まれてよかったと思うと同時に、これから先、医師になるまでの道は遠いけれど、一生の仕事として医師を志したことをよかったと感じました。大げさかもしれませんが、勇気がわいてきました。「自分の身体を医学教育に役立てたい」と決意された方々、何と貴重で尊い貢献であろうか。心から感謝の気持でいっぱいです。立派な良医になれるよう精進しますので天国で見ていて下さい。

 

 

 

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