日本財団 図書館


解剖が進む度に沸き起こる驚嘆と感動、発見と喜び、それらは例えば、手指に代表される複雑かつ繊細な動きを可能たらしめる大小様々な形態の筋肉群の走行や骨関節のデザインに対して、あるいは胸、腹、腰、骨盤内の呼吸循環器、消化器、泌尿器、生殖器の機能的な働きを支持する最適な配置に対して、そして又全身を統合的に制御するにも拘らず、脆弱な組織である脳を保護する頭蓋骨の堅牢さに対してであったりするわけですけれども、そうした高度に洗練された小宇宙を宿す人体の精巧な作りを直に触れ、感じ、生前の生き生きとした姿に想いをはせることは、間違いなく大切な実習意義の一つであって、どれほど私達の知的好奇心を刺激したか計り知れないのです。

もちろん、いつも順調に解剖が運ぶというわけではありませんでした。求める脈管や神経が見つけられず、仲間らと共に剖出すべく、時には教官や先輩先生方にもお手伝い頂きながら、遅くまで奮闘したことも、いつかきっと懐かしい思い出の一つとして語り合ったり出来る日もやってくると思うと今から楽しみな次第です。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION