解剖学実習を終えて
島津裕
はじめに我々医学生のために献体をしてくださった方と、それを受け入れてくださった御遺族の方々に感謝の意を述べさせていただきたいと思います。医学部に入学して二年。それまではほとんどの時間を医学とは直接関係のない一般教養やクラブ活動や課外活動に過ごしていた一回生。二回生になってようやく分子生物学をはじめとする基礎の専門科目を学びはじめ、医学生としての実感をかみしめておりました。三回生になり入学当初からの最大の関心事である解剖が四月に始まりました。実際に人体を用いて学ばせていただけるという期待とともに、果たして自分のような生徒にもできるのであろうかという不安を抱きつつ、生涯忘れることのないであろうと思われる解剖初日を迎えました。
教授から、これから行われる実習は法律によって医学生だけが教授の監視下でのみ行われるものである、と説明を受け医学という学問の特殊性を改めて実感したこと。解剖学教室に足を踏み入れた時に嗅いだホルマリンのにおい。自分がおよそ三カ月担当する御遺体と対面した時。自然と厳かな気持ちになり黙祷したこと。初めて御遺体にメスを入れた時のこと。これらの経験は決して忘れることはありません。解剖前、解剖中、解剖後も一度足りとも御遺体に対して敬意を払うことを忘れることはありませんでした。