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目前に現れる様々な臓器が、まるで精密機械の部品か何かの様に、ただただ合目的的に連関している様子は、現代思想の一潮流となっている還元主義、そしてそれがもたらした分子生物学と古典的解剖学との見事な調和を追認させるに十分だった。

実習遺体にしても今は篤志献体が主流である。医学の進歩を念じ、医学生が解剖を十分に勉強して立派な医者になってほしいという悲願をこめて、進んで献体される篤志家のお陰で我々は労せずして解剖実習を行い得る。こういった篤志家の御遺体を前にして、我々は個人の尊厳と死の厳粛に立ち会える心の準備はできているだろうかと何度も自問自答しつつ、同時に、時間と空間を越えて、医学史を彩る大先生達と同じ目的のもとに、同じ物を見、同じ物を触り、同じ知識を共有しようとしているという満足感を覚えたことも一再ならなかった。彼らの感じたであろう情熱、希望、苦悩そして成功と挫折を我々もまた感じつつ、着実に歩を進めていったものであった。

最後に度々の質問にいつも丁寧に答えて下さった先生方ならびに貴重な御遺体を献体して下さった方、御遺族の方に感謝したいと思います。

 

 

 

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