その日の黙祷では普段よりも多くのことを考え、ご遺体に感謝した。
また、これは実習中に思ったことだが、ご遺体を前にしてこれはおおよそ百年間この世に存在しているものなのだと考えたら、何だかとても貴重なもののように思えてきた。目の前にしているものは献体という点でとても貴重でありがたいものであるが、今この世にいるお年寄り、例えば自分の祖父母などもこの世に昔から存在していて今に至っているものであり、多少歴史を感じてしまう。これだけ長いことこの世に人間として存在できる人間てすごいなあ、と思った。
実習中に思ったこととしては他に、解剖学の歴史についてのことがある。教科書を見ると標準的な神経・血管の走行やまた破格例などが挙げられている。この構造はこういう発生過程により生じたものであるとか、この血管はなんとかという血管から分枝してどこどこに分布するとか、いろいろなことが書いてある。スケッチを書くときには自分が「世界で初めてその標本を見るのだ」というくらいの気持ちで取り組むのだ、と言った先生の話があったが、実際にそのようにしてきた偉大な先人たちの業績の積み重ねにより、今の我々の実習はスムーズに行えるのだと考えると、先人の苦労と学問の歴史のそれぞれの偉大さに圧倒されてしまう。知識というのは積み重ねだな、と思った。