日本財団 図書館


地球と太陽系と銀河系と他の銀河などとの関係を考えると気が遠くなるが、実は人体もそれと同じくらい気が遠くなりそうな代物だということに気がついた。

人体の解剖というと一般の人からは気味悪そうな反応が返ってきそうであるが、先輩たちの話によると、初めの一瞬とご遺体の手と目が気持ち悪いだけであとはどうということはない、ということだったので、実習の前にはそれほど解剖学実習について恐れはなかった。実習が始まってみると確かにご遺体の上の布を外すときまでは恐かった。しかし恐いのはそこまでで、あとはどうということはなくなってしまった。解剖が進み次第にご遺体が人の形をしなくなってくると、それがかつては生きた人間であったとはまったく思えなくなってしまった。

そんな感じであったが、実習も終盤に入ったころ側頭を解剖していたときに、ふとした瞬間にご遺体のまぶたが開きその奥のしぼんだ眼球が見えたことがある。そのときは、恐い、と感じた。久々に、これは人体なんだということを再認識できた。初めの一瞬の恐さだけで実習を終えてしまわずに、そのようにして再び畏敬の念を抱けるような出来事(大げさではあるが)が起きたことはとても良かったと思っている。実習期間中ずっと畏敬の念がなかったわけではないが、改めてそのことについて考えることができた。

実習の最終日にご遺体の上に菊の花束が置かれたとき、何だかわからないけど泣いてしまいそうだと言っている友人がいた。私もそれを聞いてさすがに少しぐっと来た。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION