人間の尊さ
伊藤敬志
はじめに、我々学生の為に自らの体を献体して下さった方々と、その御家族の皆様に心からの感謝を申しあげ、御冥福をお祈りしたいと思います。
ところで、私は解剖学の中間試験の際、不合格になりました。これは、明らかに自分の不勉強によるものでした。今、私はこの不合格を自らの御意志により献体なさってくださった御遺体に対して情けない程に恥ずかしいことをしてしまったと深く反省しています。
私は解剖学実習が始まった当初、自分の実習の仕方が御遺体の御意志とずれていたことに気付きませんでした。私は、剖出した御遺体をひたすら「見る」ことが、その御意志に適うことだと思っていました。だから他の班の実習が終った後も、我々の班のみ夜の八時、九時まで実習を続けるといったことが何度もありました。しかし、中間試験を終えてその認識が御意志とずれていたことに気付いたのです。御遺体は我々が「勉強する」ために献体なさってくれているということです。つまり、御遺体を目の前にしている時のみ真剣になるのではなく、講義中や教科書を読んでいる時も一生懸命になることが大切なのです。