解剖学実習を終えて
佐々木信也
解剖実習が始まる二ヶ月前、私は祖母を亡くしました。悲しみや辛さはあるものの、その時感じたことは、解剖実習に献体して下さる御本人、御遺族の方々の気持ちでした。特に御遺族の方にとっては悲しみが大変に強いのにも拘らず、私達の将来の為、医学の発展の為にと協力して下さるご好意に到達されるまでには、一筋に決断できず葛藤される部分も多かったのではと思われます。その様な複雑な気持ちの上に私達の実習が成り立つことを念頭に置きながら取り組んできました。
実習を終えた今、心に残り考えさせられることは、実習の本質を理解することもそうですが、人の気持ちというものでした。私達の為に協力して下さる御遺体は無論、直接に言葉で語り掛けてはくれません。しかし多くの無言のメッセージを私達に語りかけてくれました。そのメッセージには医を志す者としてだけではなく、人間として在るべき姿を、言葉では表現できない程の重さ、尊さで伝えてくれました。医師として技術ももちろん大事であると思いますが、それと同様に心の充実さも必要ではないだろうかと思います。他人の気持ち、他人を思いやる気持ち、これは私自身で学ぶべきものです。今回の実習、祖母の死を通して更に強く考えさせられました。そして死を通して生きることの大切さ、生きているからこそ有意義に過さなくてはならない。