比較的のんびりした教養が終わり、医学部学生となり、私達も「解剖学年」に突入しました。まず驚いたのは、教養時代からは想像できない、皆の真剣なまなざしです。特に、解剖学実習前の講義では鬼気迫るものがあり、やはり皆医学生だなあと思いました。
私は実際に解剖を始める前に、色々な事を考えました。特に遺体を扱うという事に関してです。自分がもし逆の立場であったら、つまり自分自身や自分の家族、友人が遺体として、医学生に解剖されるとしたらどのように扱かってほしいかを色々考えました。やはり、「粗末に扱かってほしくない」というのが一番です。つまり遺体に対して、物理的にだけではなく、接する人の心が遺体に対して粗末であってはいけないと考えました。だから、私は遺体が自分にとって近い人、例えば家族や友人であるつもりで、真摯な態度で遺体に接しようと考えました。実際に解剖が終わってみて、自分が最後までそういう気持ちでいられたと思います。実習中は、教授もおっしゃっていたように、集中して解剖する際には、目の前の遺体を、もとは自分と同じように生活していた人間ということは余り考えず、人体の構造や機能を探求する、つまり解剖に対して集中していこうと考えていました。そのことが遺体に対しての感謝になるであろうとも考えました。以前、ある解剖学者が本で、「死者は語る」と書いていました。