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しかし、こと(陸・海上)輸送に関しては、これまであまり成功していません。これは、道路輸送、鉄道、内陸水路輸送に関する国家の既得権益が残っているためです。すなわち、各国が合意した包括的計画、トランス・ヨーロピアン・ネットワーク(TEN)は今のところ総論的なプログラムであり、実際的で財政上の拘束力を持つものではないということです。最も重要な合意は高速列車、いわゆるTGVに関する国家間の合意で、TGV列車のネットワークをフランスからベルギー、オランダ、ドイツ、スペインに広げるものです。

 

しかし、貨物輸送や道路輸送、鉄道、水路に関しては何のプログラムもありません。これに関係する交渉といえば、EUとオーストリア(EU加盟国)およびスイス(EU非加盟国)との交渉だけです。両国は山が多いために欧州域内交通のボトルネックになっており、自国領土を通行するトラックに対して選択的姿勢を強めています。

 

海上輸送と港湾に関する状況も同様の事がいえます。ここでも、航空輸送および空港とは対照的に、EUは域内市場で障害のないオープンな競争を保証する以外に特に何の権限もありません。道路、鉄道、内陸水路の部門では、運輸・建設閣僚会議が欧州運輸政策(一般的であいまいですが)に責任を持つのに対し、港湾部門は特にEUの責任下にはないのです。強力な欧州港湾機構(ESPO)が最近、EU運輸局がEUレベルでそのような包括的な責任を持つことを阻止しました。これは一方で、ハンブルク―ルアーブル圏の港が一つの全体的な戦略の下に連携できない事を意味します。これらの港は同じESPOのメンバーで、EU内で共通する利害を持っていても、まず第一に、同じ欧州の後背地を共有して競合する港なのです。そのため、それぞれの国による間接的でしばしば見えない部分での援助(EU域内市場の自由競争のルールのため限定されてはいても)が現在のところまだ決定的な力をもっています(Suykens、1998年、P.121-P.132)。

 

4. 結論:海上輸送と後背地輸送の間の港湾の位置づけを理解する枠組としての「国際体制理論」

 

民間会社が主導する港としてのフィリクストウの例は、最適の商業的機能(フィリクストウは商業的に非常に成功しています)という目標と、海上の安全、港湾地域の環境特質、必要な連接受容能力(これについてはさほど成功していない)などの目標を両立させることが、民間の立場でも可能であることを示しています。ハチソン・ワンポアは同港の海側・陸側のより広い背景のもと、また地主によって設定された条件を満たすことによって、フィリクストウに投資して長期的に同港を運営することができ、地主(ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ)は民間に土地をリースしました(Baird、1998年、p.95-P.120)。

 

フィリクストウの例が示しているのは、港湾複合施設における異なる利害の「トレードオフ(取引)」戦略は、まず第一に、港湾の競争の現実を前提条件とした上でのオープンな交渉によるということです。港が社会資本であった時代ははっきりと終わりを告げ、経済資本としてのアプローチヘの移行が不可欠となっています。フィリクストウの例をより綿密に調べれば、複雑な環境下で戦略的投資・運営はさまざまな形を取りうるという結論に達するでしょう。港は公共部門にも、民間の港にも、あるいは半官半民の港にもなることができます。最も重要なのは、港湾組織がリスクを負うとともにチャンスを得て、それに対して責任を負うということです。

 

 

 

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