競争が激化し市場主導の強まる海上輸送・港湾機能において、フランス(注 : フランスでは「自治港」は中央政府が管理する港を指し、市当局の自治を意味するものではない)、イタリア(同国の港の適応についてはRidolfi、1996年参照)、スペイン(同国の港の適応についてはCastejon Arqued、1996年参照)のような中央集権制からの離脱がみられます。西欧の各地で、港湾管理運営をより自立的にし、激化する競争の中で先手を打って商業的に活発に行動し、自己責任でリスクを負うことができるようにする動きが盛んです。例外的なケースでは、港湾を民間会社が運営する(例えば、香港の企業集団ハチソン・ワンポアが運営する英国フィリクストウ港)こともあります(Baird、1998年)。西欧に出現している別の形として、民間会社が港湾機能を新設し、港湾地区の複合施設に新たな施設を追加する場合もあります。ジェノア港がその例です。フィアット(自動車メーカー)―ジェミニ・グループがシンポートの名で、フィアット・インプレシット・グループの一員としてジェノア港と共同で自立的資本合弁企業を結成したのです。このコンソーシアムが新しいポートターミナル、ジェノアーボルトリに出資し、シンポートの出資比率は95%、ジェノア港の出資比率は5%で、ターミナルはボルトリ・ターミナル・ヨーロッパ社が運営します(Ridolfi、1996年、p.352とP.353)。同じような民間部門と公共部門の港の提携はロッテルダム港でも見られます。ここではマースクとシーランドが、ECT地区での専用ターミナルの整備・運営にっいてロッテルダム港と交渉中です。
多くの場合、西欧では、この適応過程において市の運営する港が市当局から徐々に距離を置き、より自立的になる傾向があります。これは、主に社会資本としての港から、経済資本としての港への移行です。この方向での最も必然的な発展がアントワープ港湾局で起こっています。一方、ロッテルダム市、ハンブルク市の港湾局では、港湾局の「一部」、すなわち局内の一部門が独自で、あるいは他の(民間)会杜と協力して、より商業的な運営を始め、輸送・物流会社に出資して、その会社が欧州の他の国に進出するということも起こっています。
結論として、より自立的で商業的な港湾開発・運営への動きは、不可欠な条件として、港が地元および地域の環境に適合することが求められます。これは現代の、さまざまな公共機関や地方・地域・中央政府のさまざまなレベルとの関係がますます複雑化することを意味します。この多機関・多レベル関係は、港湾開発計画と都市・地域計画の複合的アプローチにおいてより明白になります。ロッテルダム港の港湾計画2010と、ROM計画と呼ばれる、ロッテルダム地域の総合的土地利用・環境特質計画はこのような戦略のよい例です(Kreukels、1996年)。
幕間
海上輸送と西欧の港湾における欧州連合の関わりとは何でしょうか。おそらく、欧州レベルの統治の影響が港湾に関してもより重要になることが予想されます。欧州連合(EU)は現在、航空輸送、特に西欧の空港に関して戦略的役割を果たし、航空輸送および空港の規制緩和を行い、この部門を昔ながらの国家への依存と保護から、米国のような自由市場へと徐々に移行させています。同様に、EUはエネルギーと通信の規制緩和・自由化にも取り組み、EU域内のオープンマーケットという基本目標に向けて成功を収めています。