造船・海運界では、欧州でこうした動きが活発で船舶の建造、運航にかかわる総合的なデータベースを利用して、Virtual Shipyardを指向したプロダクト・モデルの構想が芽生えている。
3.2.3 技術課題
企業が、種々の製品やサービスにかかわる期待利益を前提としたライフサイクルでの経済活動を展開するためには、それを実現できるだけの共通的な支援技術の確立が必要である。多業種、多企業が共同で利用できる基盤的な支援技術の確立は情報インフラに負うところが多い。
新しい船舶の開発や運航・保守・サービスにまたがるライフサイクルでの事業展開に、こうした情報化支援技術を最大限に利用した企業が、競争力を強めてゆくものと考えられる。以下では、情報技術と直接的に結びついた今後の技術課題を提案する。
(1) ライフサイクル・モデルの確立
ライフサイクルにわたる船舶の製造・運航・保守・解徹・再利用に係わる業務と技術がどうあるべきかを検討するには、船舶の企画・契約・設計・生産・運航・保守にかかわる様々な局面を想定し、それぞれの活動を支援するライフサイクル・モデルを構築する必要がある。これによりライフサイクル・コストの分析・評価が可能となる。ライフサイクル・モデルを構築するには、船舶の一生の各ステージでの意志決定に役立つ情報を統合するプロセス・モデルと、意志決定に基づく製造に必要な情報を統合するプロダクト・モデルの構築が重要となる。
これらのモデルの構築を支援する要素技術として、
・物流シミュレーション技術
・運航シミューレーション技術
・経済環境の変化に対するリスク管理手法
・運航モニタリング技術
・船舶の寿命予測
・環境負荷・安全性評価技術
などがある。いずれにしても情報通信技術の高度化に負うところが大きい。CALS(Commerce at Light Speed)による情報化の導入により、これまでの物流・運航形態あるいは新しい船舶の開発・生産の形態に潜在していた無駄を排除してコスト削減に貢献することも期待できる。
(2) ライフサイクル サポート システムの確立
ライフサイクル・モデルを確立することによって、情報ネットワーク・システムが構築され、船舶の企画・契約・設計・生産・運航・保守にかかわる様々な局面で、人間の意志決定を支援するための有効なツールとなる。そこには造船会社、船会社、運航会社、製鉄会社、舶用機器メーカー、船級協会、監督官庁、保険会社、港湾管理会社等あらゆる機関からの情報発信が統合化される。これにより製造・運航・保守・解徹・再利用にかかわるライフサイクル・コストの分析やリスク管理を効率的に実施できることが期待される。船舶の運航コストに大きな比重を占める保守・点検に関連して、長期にわたる船舶の安全管理に整合した船舶検査のあり方や船舶寿命の評価技術も研究課題となろう。