造船技術における情報技術の活用はCAD、CAE、CIM等の設計・生産ツールの発展が著しい。さらにはCALSによる企業間電子取引の技術も多くの産業界で進展し、造船分野においてもCALS試行実験が始まりつつある。
一方、長期間での船舶の活動全般にわたって、情報技術を活用した船舶管理技術の必要性が高まっているが、造船経済では、全体コストに占める資本費の部分が大きいため、initial costが重視され過ぎて造船建造時のみの設計・生産技術に偏り過ぎ、ライフサイクルにわたっての技術や管理情報のlinkageが十分発達していない。
船舶のライフサイクルにわたるコストを最小とすることを指向するためには、造船所、船会社、船級協会、保険会社、舶用メーカーから発信する情報を共有しながら、個々の企業がコスト効率の向上に取り組むことができる情報インフラが必要となる。情報技術はこうした目的に対応するだけの発展性をもっている。
(3) 環境と安全
造船技術はこれまで経済性や安全性の維持・向上を指向してきたが、これに加え地球環境の保全を配慮する時代に変わりつつあり、製造者や運航者は環境や安全を軽んじると大きなツケが回ってくることを認識している。船舶の経済性や安全性の向上技術を地球環境保全の側面から見ると、従来あまり着手していなかった環境管理や船の運航管理に係わる新しい技術が必要となってくる。しかし、経済性・安全性・環境保全の関係性は常にコストとリスクのtrade-offの関係にあるにもかかわらず、総合的な評価手法が確立されていないのが現状である。ライフサイクルにわたって船舶の健全性を評価し、環境への負荷を最小限にとどめながら環境保全へのプラス効果と経済的利益の両立を図る技術開発の必要性が高まっている。
(4) バーチャル・コーポレーションの進化
企業の生産性や収益性を向上させるために、今や、あらゆる業務を1企業で囲い込む事業展開は困難になってきている。一方で、インターネットによって開かれた市場での情報管理技術がkeyとなって、製造・保守・サービスの事業コストを低減する施策が普及し始めている。製品の開発では複数のライバル企業や顧客企業と組み、製品の生産や販売では地域に応じて別の企業と結びつくといった事業展開に変革する動きも見えてくる。個々の企業は、他社にはない優れた能力を保持しながら、業務の一部について優れた企業が外部にあれば、そこに任せて自社の生産性と収益を上げるといった企業の構造に変わる可能性を潜んでいる。
顧客の要求を迅速に満たす即応性をもち、顧客と生産者がさまざまな場所で、多様なかたちで製品とサービスを行き交わせることができるのがバーチャル・コーポレーションである。一例として、通産省主導で情報産業と自動車メーカーがCALS実用化研究事業に参画して、ネットワーク上で設計や開発のデータを共有し、新車の開発に取り組むバーチャル・コーポレーションの試みなどがある。
物流・運航・造船の経済活動では係わり合う業種や企業の幅が広く、種々の製品の製造、運航、保守、サービスといったライフサイクルにわたるbusinessでのコスト効果を向上させるためには、業種間、企業間の垣根を低くしてネットワーク技術と業務のアウトソーシングを有効に活用したバーチャル化が必要になってくる。